(福岡県 K)
ペースメーカーフォローアップの際,プログラマーや遠隔モニタリングによる刺激閾値,電位波高,リード抵抗(インピーダンス)の測定やペーシング率,不整脈の発生状況の確認のほか,通常は胸部X線,心電図の確認を行います。ご指摘のように術後慢性期のリード脱落は稀であり,被覆損傷や断線など慢性期に生じるリードトラブルの多くは抵抗値の測定により推測することができます。ただし,抵抗値の変動がなくてもリード損傷が生じることがあります。
例を示します。以前使用されていた心房リードに,J型を維持するためにリード内部に形状保持ワイヤーが入っているものがありました。この形状保持ワイヤーは電極導線と独立した構造であるため,抵抗値が変化しないままワイヤーが破断して心房あるいは血管内でリードから突出し,致命的合併症をきたすことが問題となりました1)。
また,近年使用されているペースメーカーや植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)リードには被覆内部の電極導線自体に絶縁性のコーティングがされているものがあります。この場合は被覆損傷が生じても電極導線の損傷が生じないとリード抵抗値は変化せず,抵抗値から被覆損傷を推測することができません2)。これらのリード損傷の確認には,胸部X線や高解像度のX線シネ撮影が必要です。
このほか,ペースメーカー植込み8年後の抗凝固薬投与開始に伴い顕在化したリード穿孔の報告3)や,植込み4年後に発症したReverse Twiddler’s syndromeの報告4)もみられますが,いずれも症状発現直前まで明らかな抵抗値の異常は認めていません。これらは比較的稀な合併症であっても,胸部X線をはじめとする画像診断なくしてはその確認が困難な病態です。
リード抵抗値をはじめとする,測定値の変化なく生じる術後慢性期のリードトラブルで悩ましいのは,事前にトラブルの発生を予測できない場合が少なくないことです。初期には測定値の変動をきたしにくい種類のリードを使用していても,subclavian crushや通常のTwiddler’s syndromeのように,術中手技の様子から発生をある程度予見できる場合もあります。
しかし,現時点でリコール対象になっていないリードの構造に由来するトラブルなどは,いつどの症例に発生するかを知ることは困難です。現在,ペースメーカーに関連する国内および欧米のガイドラインでは術後慢性期の胸部X線の要否に関して定めてはいませんが,上述の状況を勘案すると,半年~1年間隔の撮影は必要ではないかと思われます。
【文献】
1) Kay GN, et al:Circulation. 1999;100(23):2344-52.
2) Sato T, et al:Heart Rhythm Case Rep. 2017;3 (7):327-31.
3) Liang JJ, et al:Indian Heart J. 2013;65(3): 331-3.
4) Vlay SC:Pacing Clin Electrophysiol. 2009;32 (1):146.
【回答者】
須賀 幾 須賀医院院長