【司会】 大内尉義(虎の門病院病院長)
【【演者】 秋下雅弘(東京大学老年病科教授)
加齢男性性腺機能低下症(LOH)では,女性の閉経とほぼ同様の疾患が挙げられるが,女性と違う点は,血中アンドロゲン濃度の低下がゆるやかなことである
テストステロン高値群ではMMSEの点数は下がらない。また,テストステロン補充療法を行ったところ,MMSEの有意な改善がみられた
運動は,中年期には生活習慣病に深く関わり,老年期にはフレイルや認知症にも関わる重要な役割を果たしている
女性のエストロゲンに対して,男性にはテストステロンがあります。また,DHEA(dehydroepiandrosterone)もアンドロゲンに分類されていることが多く,副腎から分泌されます。これは抗老化ホルモンと呼ばれており,DHEAが高い人は長寿であることが,かなり以前からわかっています。しかし,その固有の受容体はいくら探しても見つからない。もしないとしたら,変換してテストステロンとしてアンドロゲン受容体に作用する,あるいはさらに変換して,エストロゲン受容体に作用するということになるでしょう。
エストロゲンでは閉経という現象があります。平均閉経年齢は50歳で,その前後約5年間を更年期と呼びますが,この期間にエストロゲン濃度が一気に低下します。それに関連して,いわゆる更年期障害や見た目の老化,骨粗鬆症や動脈硬化性疾患,そして認知症にまで至ることが知られています。
エストロゲンの非常に多面的な作用がわかってきましたが,2002年に発表された閉経後女性を対象としたホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)の効果を見たWomen’s Health Initiative(WHI)では,乳癌が2割ぐらい増えるのは予想通りで,静脈血栓症と,その結果としての肺塞栓症が増えるということは何となく言われていたことです。一方,減少するとみられていた冠動脈疾患や脳卒中が増え,骨折が抑えられたり,大腸癌が減少することがわかりました。総合的に見ると,HRTには問題があるということになりました。WHI発表後,日本では閉経後女性に対するHRTが一気に止まり,現在はほとんど行われなくなりました。
ところが,閉経後10年以内,たとえば50歳代頃からHRTを開始すると,脳卒中には良くないが,少なくとも冠動脈疾患が増えることはないであろうというWHIのサブ解析も発表されました。認知症に関しても,WHIだけではなく,以前からHRTを行っている人たちを見た観察研究では,中年期からHRTを行っている人は良いようだが,高齢期に始めたら悪いのではないかとのことでした。この過程では生殖器や乳房だけでなく,骨,血管,脳にもエストロゲン受容体があって,生理作用は十分あることがわかります(図1)。
一方,男性では,アンドロゲンにも非常に多面的な作用があることがわかってきました(図2)。アンドロゲンは筋肉増強ホルモンですから,生殖器だけではなく筋肉にも受容体があります。それから骨,血管や脳神経にも作用することがわかってきました。さらに,エストロゲンにない作用としてエリスロポエチンを増やすことによる造血作用があります。HRTを若い人が行うと多血症になりますが,高齢者は貧血状態のことが多いですから,そのような人にはむしろpositiveな効果として出うるだろうと思います。
加齢男性性腺機能低下症(late-onset hypogonadism:LOH)では,女性の閉経とほぼ同じような疾患が挙げられますが,女性と違う点は血中アンドロゲン濃度の低下がかなりゆるやかなことです(図3)。ホルモン値は,基本的には徐々に低下していくことがわかっています。これは私の推測ですが,年齢による変化の中で,中枢性にアトロピンにより分泌が制御されていますから,たとえば配偶者を亡くしてショックを受けたり,職場で何かあったときに低下しますので,その辺がトリガーになるのではないかと考えています。
フリーテストステロンは日内変動がありますので,朝の高い時点で測定することがポイントです。8.5pg/mLがHRTを考えるcut off値で,若い人(young adult mean:YAM)の-2SDという基準です。
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