(神奈川県 K)
【BMIが低いほど危険度は高くなるが,無理ない運動・栄養による体重管理なら健康寿命は延びる】
高齢者の寿命と肥満の関係は,「肥満パラドックス」として知られており,body mass index(BMI)がやや高い,過体重境界域の高齢者のほうが死亡の相対危険度が低めで,BMIが低くなるほど相対危険度が高くなることが報告されています1)。ただし,高齢者のBMIを評価する際には,脊椎の圧迫骨折や変形などがあると計算上高くなることがあるため,その点については留意が必要です。
そのような問題がなく,いわゆる「肥満」と評価された高齢者において体重の是正をどのように位置づけるか,特にBMI 27~30程度の高齢者を25~27程度に減少させることが危険か否か,というご質問です。
肥満の問題は,内科的には脂肪蓄積の部位,すなわち内臓脂肪の蓄積に問題があることが知られ,メタボリック症候群では心血管イベントが多いということは周知の事実です。また,サルコペニック肥満(サルコペニアと体脂肪増加とを併せ持つ状態)という病態も提唱されており,生活機能や身体機能の低下が生じやすいことが報告されています2)。
さらに,中年期からの肥満は,認知機能低下や認知症発症との関連性も指摘されているため,これらの健康障害が顕在化しないためには減量という方法が考えられます。実際,体重の減量が,身体機能や活動性を改善する報告3)や認知機能を改善する報告4)があり,意図的な体重管理は健康寿命の延伸にはよい可能性が考えられます。一方で,体重減少に伴う脆弱性骨折の増加の可能性も指摘されているため5),減量の程度や速度,方法には留意が必要です。
ご質問の症例については,生活習慣病合併の肥満高齢者(BMI 27~30)で比較的元気な人ということですが,サルコペニアやフレイルの合併がないかどうかについて評価されるとよいと思います。一見健康な高齢者でも,運動機能や認知機能に問題を抱えているケースが潜在しているためです。
運動と栄養による意図的な体重減少が,内臓脂肪の減少や筋肉内脂肪の減少を介して身体機能を改善するという報告4)があり,レジスタンス運動を取り入れた無理のない体重管理を行うことができれば,健康寿命の延伸をもたらすことが期待できます。また,減量によって除脂肪体重を落とさないためには,食事制限のみならず,積極的に摂取すべき栄養素やビタミン類にも配慮した食事指導が必要と考えます6)。
人の晩年における健康は,生活習慣病に伴う合併症の発症のみならず,二足歩行の障害と認知機能の低下によって奪われます。高齢者における意図的な体重の減量効果についてはさらなる検討を要しますが,心身機能の評価に基づいて,配慮ある減量指導がなされるならば利益をもたらすと考えます。
【文献】
1) Tamakoshi A, et al:Obesity(Silver Spring). 2010;18(2):362-9.
2) サルコペニア診療ガイドライン作成委員会:サルコペニア診療ガイドライン2017年版.ライフサイエンス出版, 2017, p4-6.
3) Santanasto AJ, et al:J Nutr Health Aging. 2015;19(9):913-21.
4) Horie NC, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101(3):1104-12.
5) Johnson KC, et al:J Bone Miner Res. 2017;32 (11):2278-87.
6) Verreijen AM, et al:Am J Clin Nutr. 2015;101 (2):279-86.
【回答者】
佐竹昭介 国立長寿医療研究センター老年内科医長