No.4733 (2015年01月10日発行) P.40
梁 勝則 (林山クリニック希望の家院長)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-03-14
患者の情緒的側面に応答することは医師の使命として些末なことではないが,多忙な日常診療の中ではどうしても説明し,指導することが中心になり,患者の言葉に耳を傾けるだけの時間的余裕を確保することは難しい。しかし,死の差し迫った末期がん患者の診療に際しては,患者・家族の反応に対して適切に応答する技術を獲得することは,それ自体が勇気づけになり患者の心を癒し安心させることになるので,医師にとって大変有効な手段となりうる。
結核が,ちょうど今の再発転移したがんのように死に至る病であった19世紀の米国人医師エドワード・リビングストン・トルドーの唱えた,医師としてのあり方「ときに癒し,しばしば和らげ,つねに慰む」は,現代の終末期医療においても重要な指針になっていると言える。
真剣に聞いていることの証しであり,繰り返すだけで患者は問わず語りのように続きを話してくれることもある。
▶2種類の繰り返し法
─言葉をそのまま繰り返す 「死にたい」→「死にたい……」
─確認の言葉を付け加える 「死にたい」→「死にたいと思っていらっしゃるのですね」
「繰り返し」は,カウンセリングやスピリチュアルケアの分野では応答の中核をなしている。患者の側に主導権を渡して自己探究を促すため,しばしば深いレベルでの相互理解を得ることができる。残念ながら,多忙なプライマリケア医にとって常に可能な手段とは言えない。
筆者の場合,20分以上面談の時間が確保できる病棟回診や在宅訪問時に,意識して用いている。
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