欧州糖尿病学会(EASD)では、2015年に公表されたEASDと米国糖尿病学会(ADA)による、高血糖管理に関するコンセンサス文書改訂版が公表された。改訂は、前回文書公表以降に明らかになったエビデンスを反映している。本文書では、個々の血糖管理目標値をどのように達成するかという点に重点を置き、1)生活習慣改善、2)薬剤治療、3)外科手術――という3つのアプローチについて整理されている。血糖管理と治療の目的は、「短期・長期の合併症抑制、QOL最大化」であり、治療選択の中心にいるのは患者(Putting the Patient at the Centre of Care)であると強調されている。
本レポートでは、薬剤治療につき、Melanie J. Davies氏(レスター大学、英国)とJohn B. Buse氏(ノースカロライナ大学、米国)が座長を務めたセッションから紹介したい。
薬剤治療の選択にあたっては、まず患者の特性を把握する。
評価すべき特性は、1)現在の生活習慣、2)合併症(アテローム性動脈硬化疾患 [ASCVD] 、CKD、心不全 [HF])、3)年齢、HbA1c、体重などの臨床的特徴、4)やる気やうつ症状など、5)文化、社会・経済的背景――である。
ただ、上記の相違にかかわらず、血糖低下薬の第一選択は、今回の推奨においても原則としてメトホルミン単剤である。ただし、HbA1cが管理目標値の1.5%を超えていれば、メトホルミンと他剤併用による治療開始を考慮する。
併用薬の選択にあたっては、まず1)心腎リスクを評価する。そして「ASCVD(含:高リスク1次予防例)、HF、またはCKD合併例」では、イベント抑制エビデンスが報告されている、SGLT2阻害薬かGLP-1アナログが第一選択となる。その際、CKD・HFリスクのほうがASCVDリスクよりも大きいと思われる例では、SGLT2阻害薬を優先する(SGLT2阻害薬不可の場合、GLP-1アナログ [除:末期腎不全] )。また、GLP-1アナログ、SGLT2阻害薬単剤でHbA1c低下が不十分な場合、両者併用を考慮する。ただし、これら併用の有用性を裏付けるエビデンスは、必ずしも存在しないという。
一方、上記疾患・リスクを認めない2型DM例では、2)低血糖回避、3)体重増加抑制・減量、4)薬剤費――のいずれを重視するかにより、メトホルミンへの追加・併用薬が異なってくる。「低血糖回避」を重視する場合、追加薬として考慮すべきは、DPP-4阻害薬かGLP-1アナログ、SGLT2阻害薬、グリタゾン系薬剤――となる。「体重」を重視するならGLP-1アナログかSGLT2阻害薬であり、「コスト」優先の場合、SU剤、あるいはグリタゾン系薬剤を考慮する。
注射剤では、インスリンよりもGLP-1アナログが好ましいとされた。HbA1c低下作用は同等で体重は減少し、さらに低血糖リスクも低いと、メタ解析 [Diabetes Obes Metab.2017;19:216] で示されているためだという。ただし、「HbA1c>11%」、あるいはインスリン欠乏を示唆する所見陽性、1型DMの可能性がある場合は、インスリンを優先する。その際は、基礎インスリン療法から開始する。
なおこれら推奨は、エビデンスに基づくものの、あくまでも「専門家のコンセンサス」である。逆に言えば、エビデンスが欠落している領域が数多く残っている。コンセンサス文書総括を行うべく登壇した、新EASD会長でもあるDavid R. Matthews氏(オックスフォード大学、英国)は、特にこの点を強調していた。エビデンスの充実が待たれる。
<まとめ>
第一選択:メトホルミン
メトホルミンへの追加薬:
1)ASCVD合併・高リスク1次予防、HF、あるいはCKD合併
→SGLT2阻害薬、またはGLP-1アナログ
2)心腎合併症なし
a) 「低血糖リスク」重視
→DPP-4阻害薬かGLP-1アナログ、SGLT2阻害薬、グリタゾン系薬剤
b)「体重」重視
→GLP-1アナログかSGLT2阻害薬
c)「コスト」優先
→SU剤、あるいはグリタゾン系薬剤