(東京都 F)
【清暑益気湯,胃苓湯,半夏白朮天麻湯,帰脾湯を症状により使いわける】
2018年の夏は記録的な猛暑で,最高気温が40℃を上回る地域もあり,テレビでも連日熱中症予防のため水分の頻回摂取を呼びかけていました。
『医学大辞典』(医学書院)によると,「夏負け」の項に,夏バテ,暑気あたりと同義語で,「夏期の高温多湿のために起きる易疲労,倦怠,食欲低下,体重減少などといった不快な身体症状をいう」とあります。
この夏バテに対する現代医学の治療薬とは一体何でしょうか。H2ブロッカー+消化管運動改善でしょうか。胃の調子は多少ましになったとしても,倦怠感や不眠まで治すことができません。
近年その効果が見直されている漢方薬ですが,夏バテの特効薬として,有名な方剤に「清暑益気湯」があります。一般の病院では,夏季にこの処方量が増えるそうです。しかし,最近は清暑益気湯が効かない患者が増えてきています。
この処方が考えられたおおよそ500年前の明の時代とは異なり,クーラーや冷蔵庫などが発達し,体を冷やし,冷たいものを飲食する機会が極端に増えています。そのため,夏季にもかかわらず,身体を冷やしすぎて胃腸の働きが落ち,倦怠感,食欲低下,不眠等の症状が出たと考えられます。
倦怠感,ほてり,口渇,食欲低下といった従来の夏バテには,清暑益気湯。室内で過ごしているにもかかわらず,水分を摂りすぎて胃腸が弱ったほてりを伴わない夏バテには,胃苓湯。冷えと眩暈を伴う夏バテには,半夏白朮天麻湯。冷えに加えて不眠を伴う夏バテには,帰脾湯を覚えておくとよいと思います。
患者への生活指導も重要なポイントです。漢方では未病という概念があります。中国最古の医学書である「黄帝内経」には「聖人は已病を治さず,未病を治す」とあります。江戸時代に書かれた貝原益軒の「養生訓」にも夏の養生として「生もの,冷たいものの飲食を禁じ,用心して保養すべきである」とあります。
夏バテ予防には,①夏期でも,冷たいものの飲食を控える,②1日中室内で過ごしている場合には,水分の過剰な摂取を控える,③週2回は,湯船にゆっくりつかって身体の深部まで温める,この3点を指導するとよいでしょう。入浴に関してはヒートショックプロテイン(heat shock protein:HSP)の研究で高名な伊藤要子先生が提唱されているHSP入浴法が,身体を冷やしすぎている現代人の夏バテ予防に有効な対処法だと思います。
【参考】
▶ 医学大辞典. 第2版. 医学書院, 2009.
▶ 石田秀実:黄帝内経素問上巻・中巻・下巻. 東洋学術出版社, 1991-1993.
▶ 貝原益軒:口語 養生訓. 松宮光伸, 訳. 日本評論社, 2000.
▶ HSPプロジェクト研究所:HSP入浴法.
[https://www.youko-itoh-hsp.com/hspとは/hsp入浴法/]
【回答者】
有光潤介 千里中央駅前クリニック漢方医学センター センター長