国内の医療用漢方製剤市場で80%以上の売上シェアを占めるトップメーカーとして、業界を牽引するツムラ。「漢方医学と西洋医学の融合により世界で類のない最高の医療提供に貢献します」という企業使命の下、日本の伝統医学である“漢方”のさらなる普及を目指す同社は、高品質な漢方製剤の安定供給のため、薬価改定や原料生薬高騰などの環境変化にどう対応し、どこに重点を置いて情報提供活動を展開しているのか。昨年4月に創業125周年を迎え、漢方市場の拡大に向け新たにスタートを切った同社の空田幸徳医薬営業本部長に話を聞いた。
空田 ツムラの医療用漢方製剤は1976年に初めて薬価収載され、87年までに現在の129処方になりました。しかし、それ以降新たな処方の収載はなく、各製剤は2年に1回の薬価改定の影響を受け続け、88年当時と比べ薬価が実に47%下がっている状況です。
他の製薬メーカーであれば、新薬開発や効能・効果の追加でカバーしていくことができますが、医療用漢方製剤の場合は承認のスキームが他の医療用医薬品と異なるため、効能・効果の追加や剤形変更が行われていません。
今後、毎年改定で薬価の引下げがさらに続くと、高品質な医療用漢方製剤の供給に支障を来すことも予想されます。2018年度の薬価改定の際、業界団体である日本漢方生薬製剤協会(会長:加藤照和ツムラ社長)は、安定供給を担保するため、医療用漢方製剤を「基礎的医薬品」(一定の要件を満たす医薬品を対象に、最も販売額が大きい銘柄に価格を集約し薬価を維持する制度)に位置づけるよう要望しましたが、結果的には生薬のみが基礎的医薬品に追加されるにとどまりました。
生薬・漢方製剤等全体の中で漢方製剤等の生産金額は95%以上を占めており、引き続き医療用漢方製剤・生薬製剤が基礎的医薬品として認められるよう業界をあげて取り組んでいきたいと考えています。
空田 ガイドラインは今年4月に施行されますが、私どもは以前からMR(医薬情報担当者)が情報提供する際の資材などを厳しく審査しています。医療用漢方製剤については、添付文書の範囲内で情報提供し、口頭で説明する場合でも行き過ぎはあってはいけないと常に指導しています。課題は、漢方医学そのものの情報提供です。医療現場からの「漢方医学について教えてほしい」という要望に対しては、きちんと記録を残すなど適切に情報提供していきたいと考えています。
訪問規制で全般的にMRが面談しにくくなる中、「漢方について勉強したい」という先生は増えており、漢方医学についてしっかり情報提供できる強みを生かしていきたいと思っています。
空田 医療従事者は自分に必要な情報を提供してくれるMRにはお会いいただけるはずです。ただそのためには、MRが医療従事者のニーズに合った情報提供ができなければいけません。
患者様の立場に立って、漢方医学と西洋医学の融合による最適な情報を医療従事者にお伝えする。実際に処方して効かなければ、次の漢方薬を紹介するだけでなく、状況に応じて、西洋薬を含めた情報提供ができるMRの集団でなければいけません。
「使っていただいて、ありがとうございます」ではなく、患者様がよくなるまで責任を持って情報提供するのがMRの仕事だと思っています。
空田 データによると、医療用漢方製剤は65歳以上の高齢者や女性の処方割合が高いことが明らかに示されています。高齢者は多くの症状を抱えており、寝込むほどではないけれども、思うように外出できず、サルコペニアやフレイルになる可能性がある方が多く、認知症も大きな問題になっています。その中で漢方薬への期待が高まっているのだと思います。
また、女性に関しても、働く女性が増え、不定愁訴やちょっとした不調に1つの製剤でも対応できる漢方薬へのニーズが高まっているように思います。
空田 地域包括ケアシステムの中では総合診療専門医の先生方が中心的な役割を担っていくと思いますので、そうした先生方に漢方医学的な診療を実践していただくためのセミナーをブロックごとに行うなどの取り組みを進めています。
空田 私たちの目標は、「国内のどの医療機関・診療科においても、患者様が必要に応じて“漢方”を取り入れた治療を受けられる医療現場の実現」です。
常に社員に言っているのは「多くの医療従事者が漢方医学を取り入れ、必要に応じて漢方製剤を使っていただけることが患者様の治療満足につながる」ということです。高いハードルですが、いま医療系4学部(医学部、歯学部、薬学部、看護学部)で漢方医学の講義がされ、漢方医学や漢方薬を学んだメディカルスタッフが毎年輩出されていますので、将来的には実現可能ではないかと思っています。