一連の医学部不正入試問題を大学側はどう受け止めているのか。全国80の大学医学部・医科大学の医学部長・病院長クラスが参加する全国医学部長病院長会議(AJMC)の山下英俊会長に、医学部入試のあるべき姿と医学部教育の今後について話を聞いた。(本インタビューが掲載された日本医事新報特別付録「医学部への道2020」の全文はこちらからダウンロードできます)
山下 一連の問題を受け、嘉山孝正先生(山形大医学部参与)を委員長とする小委員会を設置し、「大学医学部入学試験制度に関する規範」を策定しました。規範では、これまで医学部入試が辿った変遷を詳細に考察した上で、これからの医学部入試は「公平性」と「医療人確保」の2つの尺度に沿って行われていくべきである、という方針を明確に打ち出しています。
各大学の建学の精神に則った入試のあり方を否定するものではありませんが、「公平性」「医療人確保」の2つの尺度を上回る概念とはなりえないと考えています。今後の医学部入試においては、今回の規範が揺るぎない決定版となります。
「大学医学部入学試験制度の規範」(概要)
1 医学部入学試験においては、女性という属性を理由として合格基準に一律的に差異を設ける試験制度を施行してはならない。
2 一般入学試験においては、入学者選抜に際して浪人年数(年齢)という属性を理由に一律的に判定基準に差異を設ける試験制度を施行してはならない。
3 内部進学枠、同窓生子弟枠等の選抜にあたっては、人数や選抜法などの選抜方法を入試要項に明記し、その内容が①「公平性」、②「医療人確保」に則り、内部進学枠や同窓生子弟枠等を行うに当たってのアドミッションポリシーが国民の容認が得られ、さらに、個人が金銭を含むなにがしかの利益を得ない制度を担保し、公正に行われることが必須。
4 推薦入試枠、学士編入枠、帰国子女枠等を採用するには、それぞれの評価方法をどの程度の比重で扱うのか等を具体的に示すことが求められている点を考慮し、入学試験要項に、試験内容を明確に記載することが必要。
5 地域枠については、学生の確実な確保のため一般枠とは別に公募するが、その枠内での合否判定法は一般枠と同じ制度で運営されなければならない。しかし、その他の要件に関しては、社会に説明できる範囲内で、入学試験要項に明確に記載すれば施行できる。
山下 難しいことは確かです。例えば性差における公平性という観点では、女性医師が多くなってもキャリアをしっかり積んでいけるような制度設計が不可欠になります。卒業後いかに女性医師が活躍できる環境を整えるか、保育所をたくさん作ればすむという話ではありません。医学部や医療界にとどまらず、国全体で考えていかなければならない問題なのです。
山下 ただし規範では留保条件を一切付けることなく、性差で一律的な差異を設けることや点数操作は不適切、と明言しています。医学部入試においては環境の整備を待つことなく、公平性を厳守すべきというメッセージです。