【高齢者としての特徴を十分に配慮しながらADLの維持を図る視点が重要】
高齢者は,加齢による肝予備能の低下や骨格筋量の減少により,潜在的糖代謝障害の状態にあり,耐糖能が低下することで糖負荷による血糖値の正常化が遅延する傾向にある。特に,骨格筋量の低下によるサルコペニアは,インスリン抵抗性を生じて食後高血糖を惹起しやすい。
高齢糖尿病患者は服薬管理のミスなどから低血糖を発症しやすく,低血糖は網膜症の悪化をまねき,認知症,うつ・うつ状態,転倒・骨折や心血管病などの発症のリスクになることが指摘されている1)2)。特に高齢者の低血糖は,動悸や発汗等の自律神経症状が出にくいため無自覚性低血糖を生じやすく,中枢神経症状であるめまい・ふらつきなどが突然生じ,急激な意識障害に陥る恐れがある。また,高齢糖尿病患者は他疾患を合併している比率が高いため,ポリファーマシーになりがちで,薬剤間の相互作用などにも注意が必要となる。
『高齢者糖尿病診療ガイドライン』3)では,高齢糖尿病患者の診療では,年齢,認知機能,併存疾患や機能障害と薬剤の種類により管理目標とするHbA1c値に幅を持たせ,さらに下限値が設けられている。高齢糖尿病患者の診療では,コントロール目標値を考慮しながら重症低血糖などの有害事象の発症を未然に予防することが重要とされ,高齢者としての特徴に十分に配慮しながらADLの維持を図る視点が重要である。
【文献】
1) Johnston SS, et al:Diabetes Obes Metab. 2012; 14(7):634-43.
2) 佐竹昭介, 他:日老医誌. 2017;54(1):89-91.
3) 日本老年医学会・日本糖尿病学会:高齢者糖尿病診療ガイドライン2017. 南江堂, 2017, p37-41.
【解説】
沼崎宗夫 東北大学加齢医学研究所老年医学准教授