近年,消化器外科領域で腹腔鏡下手術が多く行われるようになり,大腸癌においても例外ではありません。2016年の日本内視鏡外科学会の全国アンケート調査では,大腸癌全体の72.0%が腹腔鏡下手術で行われており,今後その割合はますます上昇すると推測されます。一方,「大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版」では,腹腔鏡下手術は大腸癌手術の選択肢のひとつとされ,横行結腸癌・直腸癌に対する有効性は十分に確立されていないことなども記載されています。また腹腔鏡下手術の手術時間の長さやdisposable deviceのコストの問題,若手外科医の開腹手術の修練の問題等々も指摘されています。その中で,今後,大腸癌手術において開腹手術をどのように選択・実践していくべきか,その位置づけについて大所・高所からのご意見をお聞きしたいと思います。
がん・感染症センター都立駒込病院・高橋慶一先生にご回答をお願いします。
【質問者】
冨田尚裕 兵庫医科大学外科学講座(下部消化管外科) 主任教授
【開腹手術の土台の上に腹腔鏡下手術があり,開腹手術の技術は必要不可欠】
腹腔鏡下大腸癌手術は臨床試験で非劣性は証明できなかったものの,その安全性と,治療成績が大半の大腸癌手術において開腹手術と同等であったことから,現在大腸癌手術の約70%は腹腔鏡下に行われています。では,開腹による大腸癌手術は今後消えていってしまうのでしょうか。筆者は決してそうではないと考えます。
開腹手術の発展型として腹腔鏡下手術があると思われますが,腹腔鏡下手術は開腹手術と腫瘍学的に同等の質を担保した手術でしょうか。がんの手術においてはまず,血管の根部からリンパ節郭清を先行し,リンパ管までを含めた郭清が必要であると思われます。しかし腹腔鏡下手術では,リンパ管を含めた郭清は困難で郭清の層が浅くなっています。また,腫瘍側に組織をつけるようにして剝離操作を行うべきであると考えますが,腹腔鏡下手術では正常組織側に組織をつけるようにして剝離操作を行うのが標準的な剝離操作で,この剝離操作は良性疾患の手術での剝離操作と何ら変わるところはありません。統計学的に予後は開腹手術と同等ですが,骨盤内に病変が大きく進展している症例や,血管根部のリンパ節にがんが進展している症例に対しては,開腹手術のほうがより的確に安全に手術が遂行できると思います。このように,腫瘍学的にがんの手術を行うという観点から腹腔鏡下手術は必ずしも理にかなった手術とは言えないと思います。
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