呼吸器内科診療のエッセンスを分かりやすく解説した書籍『レジデントのためのやさしイイ呼吸器教室』(弊社刊)をはじめとする「やさしイイ」シリーズが好評の長尾さん。肺区域を覚えるための「ブロンコ体操」や、シルエットサインの説明に水の入った器とお菓子を用いるなど、初学者がつまずきやすいポイントを独自のセンスで解説するスタイルが評判を呼んでいる。
2003年まで実質的に呼吸器内科がなかった滋賀医大へ05年に赴任。同大では長年、呼吸器内科の系統立った教育を受けられない状況だった。「呼吸器内科医が増えればより多くの患者さんが救える」という思いから、まずは若い人に興味を持ってもらおうと、講義のスライドや指導に創意工夫を重ねた。最初は「砂漠に水をまく」ような状態だったが、やがて授業が人気を博するようになり、入局者も増加。さらに、当初プリントで配布していた講義の内容を多くの人に見てもらおうと、後に書籍の基になるブログの執筆を始めた。今では全国の医療従事者から「呼吸器内科の診療が楽しくなった」という声が寄せられる。
ユーモアあふれる説明のアイデアは、学生や研修医と話している時に湧いてくるという。『呼吸器教室』『胸部画像教室』に続くシリーズ最新刊『やさしイイ血ガス・呼吸管理』に登場する、「テーマパークのトロッコ理論」もその一つだ。「かつての自分に教えるなら、どうしたら分かってもらえるかを意識しています。呼吸器内科の面白さに触れてもらい、どんどん得意になってほしい」
教育に積極的に取り組むことで、自身も呼吸器内科の奥深さを改めて感じ、教えることが好きになったという長尾さん。これからは医学教育の改善に貢献する仕事にも取り組みたいと意欲を示す。
呼吸器内科を目指すきっかけとなったのは、学生時代に受けた泉孝英京大名誉教授の授業だ。
「視点が独特で、他の講義とは全然違うことをおっしゃっていたのが印象深かった。呼吸器内科医が減っているといわれますが、呼吸器内科の魅力を伝えないといけない。自分自身がその役割を果たさなあかんと思っています」