SUMMARY
地域包括ケアシステムの理論的基盤の1つが統合的ケアである。統合的ケアには,統合の幅として垂直的統合と水平的統合,統合の方向性として完全な統合・協調・連携があり,これらの概念はプライマリ・ケアの現場で個別の事例に生じた問題点の整理・方向付けや,診療する地域での連携を俯瞰的にみることに役立つ。
KEYWORD
統合的ケア
地域医療においてケアの分析はよく起こるシステム上の問題の1つであることを認識し,そのような分析が原因と考えられる事例と遭遇したときには,どの専門職(非医療職を含む)とどのレベルまで連携が必要かを見きわめ,意識することが,医師に必要である。
PROFILE
都市部の診療所長として外来・訪問・健診業務に従事。総合診療の専攻医の指導,指導医育成もライフワークとしています。
POLICY・座右の銘
Father, give us courage to change what must be altered, serenity to accept what cannot be helped, and the insight to know the one from the other.
事 例
80歳男性,高血圧と慢性閉塞性肺疾患のため最寄りの内科に,変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症のため整形外科に,白内障のため眼科に通っている。定期で実施している採血で腎機能障害が認められたため原因を検索したところ,NSAIDsが一時的に二重処方されていたことが判明し,処方をもらう薬局が異なるため事後の発見になった。また,最近フレイルの進行と膝関節痛のため歩行が困難になっており,本人と家族は介護保険の申請を希望しているが,複数の医師にかかっているため誰に依頼するべきか迷っている。
地域包括ケアシステムは,近年の医療・ケア体制再構築の重要な柱の1つと見なされている。背景として,医療需要の質的・量的増加,慢性疾患中心への疾病構造の変化,高齢化,核家族化などが挙げられる。高齢者はさらに増え,その多くが疾患と機能障害を抱えながら生活しなければならないが,かつて高齢者を支えていた家族や地域(隣近所)はその機能を果たせなくなっている。他方,社会保障費の増大は喫緊の国家的課題であり,従来の病院中心の医療体制は,コスト的にも機能的にも,地域の医療体制の主要な柱ではあっても中心ではない。