(新潟県 H)
【副腎皮質ステロイドの10年以上連日服用による続発性副腎不全の可能性。ヒドロコルチゾン少量補充を続けてACTH回復を待つ】
本症例は,医原性の続発性副腎不全の可能性が最も高いと推察されます。薬理量の副腎皮質ステロイドを10年以上連日服用した場合,視床下部副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone:CRH),下垂体副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)の合成分泌は強力かつ持続的に抑制されます。その後,ステロイドを漸減ないし中止した場合,間脳下垂体・副腎系は視床下部,下垂体,副腎の順に徐々に機能が回復しますが,完全な回復には半年から1年前後を要します。またネガティブフィードバック機構の解除を介して視床下部・下垂体を刺激しなければ回復は望めません。しかしながら,気長に補充量を漸減すれば,その機能は完全に回復するのが通例です。永続的なACTH欠損状態に移行する例,あるいは自己免疫性のACTH欠損症を偶然に合併する例も皆無ではありませんが,きわめて稀です。
本症例の場合,プレドニゾロン内服中止後も,ステロイド吸入薬が服用されていたことが問題です。また,記載にはありませんが,何らかの合成ステロイド入り外用薬が使用されていた可能性も否定できません。一般に長期ステロイド使用後の患者はステロイド離脱症候群(関節痛,筋肉痛等)に悩まされ,少量でもステロイドが補充されると症状が改善するため,ついついステロイド入りの薬剤(特に,強力な合成ステロイド入りの吸入薬や外用薬)を使いたがる傾向があります。その使用量や頻度が高い場合,体内に吸収された薬物の視床下部・下垂体系への影響は無視できません。
負荷試験の結果をみる限り,現時点で下垂体AC TH分泌,および副腎コルチゾール分泌は抑制されており,ヒドロコルチゾン(コートリル®)の投与が必要であることはご判断通りです。しかし,1日15mgの補充を継続する限り,視床下部・下垂体機能の回復は期待薄です。
他のステロイド使用を中止し,かつ発熱時のヒドロコルチゾン増量など,シックデイ対策を十分に服薬指導した上で,やや少なめの量,たとえば10mg/日(毎回5mgを朝・昼食後に内服)の少量補充を少なくとも半年以上継続し,ACTHの基礎値が回復してくるか否かを粘り強く観察して下さい。回復する例では,まず早朝のACTH基礎値が一度基準範囲を超えるほどの高値を呈するようになり,1~2カ月遅れて早朝のコルチゾール基礎値が回復してきます。回復傾向が認められる場合は,5mg/日連日,そして隔日と,1年以上かけて徐々に減量していくことを推奨します。
【回答者】
岩﨑泰正 高知大学臨床医学部門教授