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ACTH単独欠損症の原因は?

No.4955 (2019年04月13日発行) P.54

岩﨑泰正 (高知大学臨床医学部門教授)

登録日: 2019-04-11

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73歳,女性。1996年6月に気管支喘息発症,近医にてパラメタゾン2mg/日を2007年3月まで長期服用,同月からプレドニゾロン10 mgに変更し,8月まで服用。その後漸減し,ステロイド吸入薬に切り替えました。
2014年1月10日,嘔気とめまいで救急来院し,ソル・メドロール®125mgを1回のみ投与。以後,当院にも通院。2017年7月,食欲不振,めまい,低血糖・低ナトリウム血症を認め,副腎不全疑い。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),ヒドロコルチゾン基礎値を採血後,コートリル®(ヒドロコルチゾン)15mg朝1回投与で,現在に至ります。
近医より,ヒドロコルチゾンの服用の是非について問い合わせがあり,7月12日にACTH負荷試験をしました。ヒドロコルチゾン服用前0.4μg/dL,30分1.5μg/dL,60分1.5μg/dLとほぼ無・低反応でした(4.5~21.1μg/dLが基準値)。7月23日,副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)試験。ヒドロコルチゾン服用前0.8μg/dL,60分0.6μg/dL,90分0.6μg/dLと,同じく低反応でした(7.2~63.3μg/dLが基準値)。試験結果よりACTH単独欠損症として,ヒドロコルチゾンの必要性を近医に報告しました。
(1)ACTH単独欠損症があることは確定しましたが,その原因は何なのでしょうか。特発性(自己免疫性)なのでしょうか。もしくは長期間ステロイドを服用した医原性によるものなのでしょうか。
(2)今後,ヒドロコルチゾンを休薬して,改めて再検査することは必要でしょうか。今後の経過観察の方法も含めてご教示願います。

(新潟県 H)


【回答】

【副腎皮質ステロイドの10年以上連日服用による続発性副腎不全の可能性。ヒドロコルチゾン少量補充を続けてACTH回復を待つ】

(1)ACTH単独欠損症の原因

本症例は,医原性の続発性副腎不全の可能性が最も高いと推察されます。薬理量の副腎皮質ステロイドを10年以上連日服用した場合,視床下部副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone:CRH),下垂体副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)の合成分泌は強力かつ持続的に抑制されます。その後,ステロイドを漸減ないし中止した場合,間脳下垂体・副腎系は視床下部,下垂体,副腎の順に徐々に機能が回復しますが,完全な回復には半年から1年前後を要します。またネガティブフィードバック機構の解除を介して視床下部・下垂体を刺激しなければ回復は望めません。しかしながら,気長に補充量を漸減すれば,その機能は完全に回復するのが通例です。永続的なACTH欠損状態に移行する例,あるいは自己免疫性のACTH欠損症を偶然に合併する例も皆無ではありませんが,きわめて稀です。

本症例の場合,プレドニゾロン内服中止後も,ステロイド吸入薬が服用されていたことが問題です。また,記載にはありませんが,何らかの合成ステロイド入り外用薬が使用されていた可能性も否定できません。一般に長期ステロイド使用後の患者はステロイド離脱症候群(関節痛,筋肉痛等)に悩まされ,少量でもステロイドが補充されると症状が改善するため,ついついステロイド入りの薬剤(特に,強力な合成ステロイド入りの吸入薬や外用薬)を使いたがる傾向があります。その使用量や頻度が高い場合,体内に吸収された薬物の視床下部・下垂体系への影響は無視できません。

(2)経過観察

負荷試験の結果をみる限り,現時点で下垂体AC TH分泌,および副腎コルチゾール分泌は抑制されており,ヒドロコルチゾン(コートリル®)の投与が必要であることはご判断通りです。しかし,1日15mgの補充を継続する限り,視床下部・下垂体機能の回復は期待薄です。

他のステロイド使用を中止し,かつ発熱時のヒドロコルチゾン増量など,シックデイ対策を十分に服薬指導した上で,やや少なめの量,たとえば10mg/日(毎回5mgを朝・昼食後に内服)の少量補充を少なくとも半年以上継続し,ACTHの基礎値が回復してくるか否かを粘り強く観察して下さい。回復する例では,まず早朝のACTH基礎値が一度基準範囲を超えるほどの高値を呈するようになり,1~2カ月遅れて早朝のコルチゾール基礎値が回復してきます。回復傾向が認められる場合は,5mg/日連日,そして隔日と,1年以上かけて徐々に減量していくことを推奨します。

【回答者】

岩﨑泰正 高知大学臨床医学部門教授

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