下垂体プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)はホルモン産生性(機能性)下垂体腫瘍の中で最も頻度が高く50~60%を占める1)。発症は女性に多く男女比は1:3である2)。女性の中でも25~34歳が発症のピークとされる2)。主症状はプロラクチン(prolactin:PRL)過剰症状として,男性では性欲低下,勃起障害,女性では月経異常,乳汁分泌がみられる3)。下垂体腫瘍が大きい場合は圧迫症状として頭痛や視力・視野障害を生じる。一般に,女性に比べ男性では自覚症状に乏しく,発見時の下垂体腫瘍のサイズは大きいことが多い。
臨床症状に加え複数回測定した血中PRL値の上昇を認め,かつMRIにて下垂体に腫瘍を認めることが診断の手掛かりとなる。しかし,血中PRL値の上昇は種々の病態でみられるため(後述),プロラクチノーマ以外の病態の鑑別が必要である。プロラクチノーマでは一般的に血中PRL値と下垂体腫瘍のサイズに正の相関がみられる3)。下垂体に直径1cm以上のマクロ腺腫が指摘され,血中PRL 250ng/mL以上の場合はプロラクチノーマの可能性が高い3)。
種々の薬剤(向精神薬,抗潰瘍薬,制吐薬,ピルなどのエストロゲン製剤)で高PRL血症がみられる。このため血中PRL測定時には,これらPRLに影響のある薬剤の内服歴を確認する。薬剤性が疑われた場合には,可能なら3日間の休薬後にPRLを再検する2)。女性では妊娠を除外しておく。
PRLの分泌は視床下部からのドパミンにより抑制的に調節されている。このため,間脳下垂体領域の器質性病変(頭蓋咽頭腫,ラトケ囊胞,胚細胞腫瘍,非機能性腫瘍,下垂体炎,下垂体肉芽腫性疾患など)で視床下部からのドパミン分泌が障害されると血中PRL値が上昇する(stalk effect)。この場合のPRL値は<100ng/mLのことが多い。原発性甲状腺機能低下症や腎不全でも血中PRL値の上昇がみられることがある。
明らかな臨床症状や病因が指摘できないにもかかわらず血中PRL値のみが高値の場合はマクロプロラクチン血症の可能性も考慮する。マクロプロラクチン血症では血液中にPRLに対する自己抗体が存在し測定値が偽高値となる。このような場合にはポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)などで自己抗体を沈殿させた後に上清を用いてPRL値を再検する3)。
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