(新潟県 H)
【投薬開始後の厳重な栄養管理が必要となる】
ドネペジル(アリセプト®)はアセチルコリン阻害薬の一種で,アルツハイマー型およびレビー小体型認知症の進行抑制効果が認められています。胃癌術後患者も高齢化が進んでおり,処方を検討する機会が増加していると考えられます。
ドネペジルのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用により,消化器系では胃酸分泌・消化管運動の亢進による症状が認められます。胃全摘術後に胃酸分泌は生じませんが,胃貯留能の喪失,食欲増進ホルモンであるグレリン産生低下等による食事摂取量減少から低栄養を生じやすく,1割以上の体重減少が認められます。ドネペジル投与による下痢や蠕動亢進に伴う腹痛等の副作用により,食欲不振が懸念されます。さらなる体重減少(特に筋肉量の減少)や身体能力が低下するサルコペニアを予防するために,投薬開始後の厳重な栄養管理が必要となります。
食事から摂取される鉄は,肉類に多く含まれる「ヘム鉄(Fe2+)」と植物系食品に多く含まれる「非ヘム鉄(Fe3+)」の2種類あり,それぞれ吸収のメカニズムが異なります。日本人は非ヘム鉄から多くの鉄を摂取していますが,3価鉄は胃酸による低pH状態で可溶化され,腸管上皮のduodenal cytochrome b(Dcytb)によって2価に還元され,非ヘム鉄輸送体(divalent metal transporter 1:DMT1)を介して粘膜細胞内に取り込まれます。
胃全摘術後は胃酸分泌機能を喪失しており,再建により食物が十二指腸を通過しないことから,鉄の吸収障害による鉄欠乏性貧血を生じます。胃切除術後の鉄欠乏性貧血に対する鉄剤投与には,注射薬を用いることがありますが,多くの場合は経口薬の投与で十分に効果が得られます。胃全摘術後の貧血には内因子欠乏に起因する巨赤芽球性貧血も生じるため,鉄剤だけでなくビタミンB12の投与も必要となります。鉄欠乏性貧血は術後数カ月後から,巨赤芽球性貧血は術後4〜5年以降に生じやすくなります1)。
胃全摘術後にも逆流性食道炎を生じることがあり,胆汁や膵液を含む十二指腸液の逆流が原因と考えられます。薬物療法にはカモスタットが用いられます。膵液に含まれる蛋白分解酵素であるトリプシンを阻害することにより,食道粘膜障害を抑制し症状を改善します。胃全摘術後には胃壁細胞がないのでプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)は無効と思われますが,PPIには膵外分泌抑制作用があり,胃全摘後の逆流性食道炎に対して有効であったとする報告が散見され,実臨床では用いられることがあります2)3)。
【文献】
1) 福井淳一:Nutrition Care. 2012;5(9):895-9.
2) 加藤博久, 他:Prog Dig Endosc. 1996;48:156-7.
3) 橋本直樹, 他:消化器内科. 2013;56(2):172-6.
【回答者】
福井淳一 信愛会交野病院外科部長