【質問者】
松原茂樹 自治医科大学産科婦人科学講座主任教授
【実際に投与が禁忌とされている薬剤は多くはない】
妊婦への薬剤投与は常に慎重であるべきです。しかし,実際には投与禁忌薬剤は多くないのが事実であり,必要な薬剤投与までためらってはいけません。胎児への危険性だけを心配するのではなく,妊婦への薬剤投与はその妊婦の心身の健康維持に寄与することに加え,子宮内環境の改善によって胎児の健康維持にも働くことを忘れてはいけません。
妊婦への投与が禁忌となる薬剤は,妊娠していなければ投与が適応となるにもかかわらず,以下の2つの条件を満たしてしまう薬剤です。
条件①:ヒトにおいて催奇形性,もしくは催奇形性以外の胎児への有害作用が証明,あるいは強く疑われている。
条件②:妊婦への投与により得られる母児への有用性が,条件①に示した危険性よりも明らかに低い。
条件①を満たす薬剤1)はそれほど多くなく,さらにその中には条件②を満たさないものもあるため,結果的に妊婦への投与禁忌薬剤は少なくなります。
では,実際に禁忌とされている薬剤にはどのようなものがあるのでしょうか。投与する妊娠時期別に列挙します。
サリドマイド,レナリドミド,ポマリドミド,エトレチナート,シクロホスファミド,ダナゾール,ミコフェノール酸モフェチル,ミソプロストール,メトトレキサート,リバビリン
これらの薬剤はいずれもヒトで催奇形性が証明,あるいは強く疑われています。これら以外で,たとえばバルプロ酸をはじめとした抗てんかん薬やチアマゾールなどにも催奇形性はありますが,患者によっては条件②を満たさないため,必ずしも禁忌とは言えません。こうした薬剤については患者ごとに慎重に検討する必要があります。
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