「便が出にくい,出てもスッキリしない」と悩む高齢者は多い。老化によって腸の潤いが減り直腸肛門感覚が鈍化するため,排便のタイミングを逃して糞便塞栓を起こすケースも少なくない。
このような排便困難型の便秘患者は1日でも便が出ないと不安なので,下剤の使用量が多くなりやすい。しかし下剤を増やしても便が完全に出ないため,直腸付近に停滞した便が硬くなる。その結果,出始めの便が硬くて後半の便が下痢状になるいわゆるコルク排便となるため,なかなか快便感が得られない。
慢性便秘症のガイドラインで最も推奨されている下剤は,浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)と上皮機能変容薬(ルビプロストンとリナクロチド)の2つである1)。いずれも便を軟らかくすることで排便を促すタイプの緩下剤であり,長期に使用しても効果が減弱しないため慢性便秘症の治療に適している。これらの緩下剤だけでは効果が不十分な場合は,センノシドなどの大腸刺激性下剤を併用する必要がある。
便秘に有効な漢方薬は多数あり,大黄(主成分はセンノシドA)や芒硝(便を軟らかくする作用)の分量が明確になっているので,重症度や随伴症状の有無に合わせて使い分けることができる。
麻子仁丸は麻子仁と杏仁に含まれる油脂成分(オレイン酸など)によって腸を潤し,便の滑りを良くしてスムーズな排便を促す。麻子仁丸は甘草や黄芩を含んでおらず,大黄の含有量も控えめなので,慢性便秘症のガイドラインや高齢者の安全な薬物療法ガイドラインでも推奨されている。
桃核承気湯は大黄と芒硝を両方含有する最強クラスの漢方下剤で,体力のある人向けの方剤である。本症例は高齢だが体格が良かったため使用してみたところ,患者が快便を自覚できた。桃核承気湯は瀉下作用が強く長期投与には適していないため,排便リズムが整ったところで再び麻子仁丸に戻した。
近年,下剤の新薬が続々と登場しているが,薬価が高いためか,まずは従来薬を使用するよう厚生労働省保険局から通知が出た。一方で,本邦で多用されている酸化マグネシウムは高マグネシウム血症の危険があるため,高齢者には慎重投与となっている。
漢方下剤は大黄を中心にそれをサポートする様々な生薬が配合されており,腹痛や腹部膨満感といった便秘の随伴症状に有効なものもある。適切な方剤を選択すれば1剤で便秘治療を完結させることも可能であり,高齢者の便秘治療における漢方の役割はますます重要になってくるであろう。