慢性甲状腺炎は,典型的にはびまん性甲状腺腫と抗サイログロブリン抗体(anti-thyroglobulin antibody:TgAb),抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(antithyroid peroxydase antibody:TPOAb)が陽性になる中年女性に多い病気である。甲状腺機能低下症になるのは潜在性甲状腺機能低下症を含めて約3割で,多くは甲状腺機能正常である。
慢性甲状腺は組織学的にリンパ球浸潤,リンパ濾胞の形成,間質の線維化,上皮細胞の好酸性変性によって診断される。組織による診断が現実には困難なので,バセドウ病を否定した上でTgAbまたはTPOAbの陽性で診断される。
慢性甲状腺炎での甲状腺機能は変動しやすい。ヨウ素の過剰摂取では甲状腺機能低下症,無痛性甲状腺炎を発症することがあるので,昆布類の多食は制限し,ヨウ素を大量に含む薬を使用している場合は,可能であれば他剤に変更する。この処置で1~2カ月後に甲状腺機能低下症が改善しなければチラーヂンS®(レボチロキシン)を開始する。
原則,経過観察となる。頸部圧迫感や気管狭窄を認めるような巨大甲状腺腫では手術も考慮する。経過観察を行う場合の注意点であるが,半年~1年に1回はFT3,FT4,甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)の機能検査が必要である。患者には健康診断で総コレステロールが前回検査よりも著しく上昇した場合,急激に甲状腺腫が増大した場合は受診するように説明しておく。前者は甲状腺機能低下症を,後者は悪性リンパ腫や甲状腺癌の合併を疑う。
投与方法は,甲状腺機能低下症の場合と同じである(「甲状腺機能低下症」の稿を参照)。
妊娠初期にTSHは低下し,FT3,FT4は上昇する。その後,FT3,FT4はゆっくり低下し,非妊娠時の基準範囲上限よりも低くなる。TSHは中期以降には初期よりは上昇するが,非妊娠時の基準範囲上限を超えることはない。FT3,FT4,TSHは妊娠中に変動するので各施設で妊娠中の基準範囲をつくる必要がある。しかし,実際問題これは不可能である。また,現在広く使用されているimmunoassay法で測定されたFT3,FT4は,妊娠中はサイロキシン結合グロブリン(thyroxine binding globulin:TBG)の増加などの影響を受ける。最も正確な測定法であるliquid chromatography-tandem mass spectrometry assay1)との相関は良くなく,妊娠中はimmunoassay法での測定結果は信頼性に問題がある。妊娠中はTSH値が最も信頼できるので妊娠初期はTSH<2.5μU/mL,それ以降は<3.0μU/mLを目安にチラーヂンS®(レボチロキシン)にてコントロールする。
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