甲状腺に炎症をきたし,発熱(38℃以上となることも多い)と甲状腺の部位に疼痛を伴う疾患である。さらに,炎症により破壊された組織から甲状腺ホルモンが漏出し,甲状腺中毒症の症状も呈する。咽頭・上気道感染の先行が多く,ムンプスや麻疹などのウイルス感染の関与,HLA-Bw35が疾患感受性と関連という報告,インターフェロン投与などによる免疫状態の変化が関与との報告もあるが,詳細は不明である。
多くは上気道感染の前駆症状を認め,甲状腺の部位に合致した前頸部痛(自発痛・圧痛)をきたす。疼痛は下顎や耳介後部への放散もある。この前頸部の疼痛部位は腫脹し硬く,しばしばその疼痛部位が甲状腺内を移動する(クリーピング現象)。典型例では38~39℃の発熱を認め,また甲状腺内の炎症,組織破壊による甲状腺中毒症の症状(倦怠感,動悸,息切れ,発汗過多,手指の振戦,体重減少など)を認める。
本疾患の炎症による甲状腺組織の破壊は一過性で,炎症の終息とともに正常化する。甲状腺中毒症を呈する急性期から一過性の甲状腺機能低下の時期を経て正常化するのが一般的である。
血液検査では急性期にCRP上昇,血沈亢進,白血球正常~軽度高値,FT3高値,FT4高値,TSH低値,Tg高値を認める。炎症による甲状腺組織の破壊は一過性で,半減期の短いT3はその破壊が終了すると低下し,FT3正常値でFT4高値となることもある。時にTg抗体やTPO抗体陽性例や,さらに稀にTR抗体陽性例もあるが,それらは一過性であることが多い。
甲状腺超音波検査では,甲状腺の疼痛部位に一致して境界不明瞭な低エコー域が観察される(図)。
急性期の放射性ヨウ素(123I)摂取率は5%以下,テクネチウム(99mTc)での甲状腺摂取率も低値である。
甲状腺細胞診では多核巨細胞や類上皮細胞を認め,腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見は認めない。
甲状腺に疼痛と腫脹を伴う疾患として,鑑別を要する疾患は橋本病の急性増悪,甲状腺囊胞内への出血,急性化膿性甲状腺炎,未分化癌がある。囊胞内出血や未分化癌では甲状腺中毒症は呈さず,急性化膿性甲状腺炎では甲状腺ホルモンの上昇はあっても軽度,病変は甲状腺左葉に多く,疼痛部位に一致した皮膚の発赤が特徴である。橋本病の急性増悪との鑑別が困難な例も時に経験するが,橋本病の急性増悪はTPO抗体やTg抗体が強陽性であることが多い。
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