職場で大量・高頻度のアレルゲン吸入が持続するため重篤化しやすく,ついには失業し社会的・経済的に困窮する重大な疾患であるので早期発見・対策が重要である
最も重要な点は,職業性喘息を疑うことである
必ず職歴を聞き,作業日と休日の喘息症状との関係を問診する
診断では,自宅・職場でピークフローの連日測定が最も有効である
治療は,通常の喘息治療を十分行う。職場での原因アレルゲンは原則完全回避,刺激物質などへの曝露も極力回避する
「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」に準拠している1)
32歳男性。2カ月前から咳痰が出現し,しだいに増悪した。2週間ほど前から息苦しさを感じるようになり,夕方から夜間に喘鳴を自覚し当院に来院した。胸部聴診にて呼気時に軽度の高音性連続性ラ音が聴かれた。胸部X線に異常はなかった。検査では,呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)は45ppb,喀痰中に好酸球が多数認められた。肺機能では,%肺活量(vital capacity:VC)102%,1秒率(foced expiratory volume:FEV1.0%) 65%であり,喘息と診断された。
①職歴問診:宅配ピザ屋の店員であり,およそ半年前からこの職業に就いている。
②職務内容問診:仕事中小麦粉の粉を吸うと咳がひどく出るとのことであった。
③記録:ピークフローメーター(簡単な呼吸機能測定器具)と日記を渡し,朝・職場・夜にピークフローを測定し記録するように依頼した。症状もあるので,吸入ステロイド(inhaled corticosteroid:ICS)+長時間作用性β2刺激薬(long-acting β-agonists:LABA)と短時間作用性β2刺激薬(short-acting β-agonists:SABA)を処方した。
④ピークフロー:勤務日の特に小麦粉の作業を行った夕方から翌朝にかけて低下し,休日の夕方から翌朝は低下しなかった。
⑤特異的IgE抗体:④ピークフローと同時に測定を行った特異的免疫グロブリンE(immunoglobulin E:IgE)抗体は,小麦粉に対して陽性であった。
⑥対処:仕事場ではマスクの着用を奨励し,できれば多量の小麦粉を扱う作業を避けるようにアドバイスした。1カ月後にはほぼ咳や喘鳴は消失した。
職業性喘息とは,職場に関連してある物質に曝露され,それが原因となり発症する喘息である。職業性と診断されない場合や,診断されても職業なので対策を行わない場合は,大量・高頻度のアレルゲン吸入が持続するため重篤化しやすく,ついには失業し社会的・経済的に困窮する。