本年の欧州心臓病学会(ESC)で報告されたPARAGON-HF試験では、左室収縮能の保たれた心不全(HFpEF)例に対するARB・ネプリライシン阻害薬(ARNi:Angiotensin Receptor/Neprilysin inhibitor)はARBに比べ、「心血管系(CV)死亡・心不全入院」の有意抑制を認められなかった。しかし、本学会で示された追加解析の結果、この作用には男女差のある可能性が示された。John J V Mcmurray氏(グラスゴー大学、英国)が報告した。
PARAGON-HF試験の対象は、「左室駆出率(LVEF)≧45%」かつ、左室肥大・拡大とNT-proBNP上昇を認め、利尿薬使用下でNYHA分類II~IV度だった心不全4822例である。平均年齢は73歳、LVEF平均値は58%、77%がNYHA分類II度だった。これら4822例はARNi群とARB群にランダム化され、35カ月間(中央値)観察された。その結果、ARNi群における1次評価項目である「CV死亡・心不全入院」のリスク比(RR)は0.87(95%信頼区間 [CI]:0.75-1.01)で、ARB群と有意差はなかった(ESC報告)。
しかし今回、男女別に分けて解析したところ(事前設定追加解析)、男性ではARNi群の「CV死亡・心不全入院」RRは1.03(95%CI:0.84-1.25)で、ARB群と有意差を認めなかった一方、女性(今回解析対象の51.7%)では0.73(同:0.59-0.90)と有意なリスク低下を認めた。性差による交互作用P値は0.017である。
そこで女性におけるイベントの内訳を見ると、ARNi群で著明な減少を認めたのは「心不全入院」のみだった(RR:0.67、95%CI:0.53-0.85)。ARNi群とARB群の心不全入院発生率曲線は、試験開始3カ月後ほどで解離を始め、観察期間を通じて離れ続けていた。一方、心不全入院が減少したにもかかわらず、CV死亡リスクに有意差はなかった(ハザード比:1.02、95%CI:0.76-1.36)。
ARNiによる「CV死亡・心不全入院」抑制作用に男女差が生じた機序としてMcmurray氏は、①女性の方が「LVEF:40~65%」の割合が多かった(全体の事前設定解析で、LVEF≦57% [中央値] 例のみならば、ARNi群で1次評価項目リスクは有意に低)、②女性では閉経後で、もとよりcGMP-PKG情報伝達系が減弱していたため、ARNiによるこの系の活性化が著明だった―などを挙げた。しかし偶然である可能性も否定できないとし、さらなる検討が必要だと述べた。
なお、指定討論者であるLynne Warner Stevenson氏(バンダービルト心臓・血管研究所、米国)は、女性のARNi群における「CV死亡・心不全入院」リスク減少率は、心不全入院既往の「ない」例に比べ「ある」例で大きく、心不全入院既往の有無による交互作用は0.050だったとする、別の解析結果を示していた。
本試験はNovartis社のサポートを受けて行われた。また報告と同時に、Circulation誌にオンライン掲載された。