高安動脈炎は,大動脈およびその主要分枝,冠動脈,肺動脈などの炎症性壁肥厚から狭窄または拡張病変をきたし,支配領域の血流障害を発現する。原因不明であるが,大動脈壁へ外側から入る栄養血管の増生が認められ,外膜から中膜にかけて炎症性細胞浸潤を認め,非薄化による動脈壁脆弱化と,中膜侵食から中膜が喪失し代償性の内膜細胞線維性肥厚から動脈内腔が狭窄する。日本の患者数は約6000人程度と考えられている。初発症状は,微熱,頸部痛,倦怠感など多様かつ非特異的で,経過とともに末梢における脈消失や脳虚血,狭心症,大動脈閉鎖不全症,網膜病変など,臓器障害が顕在化する。
2017年に改訂の「血管炎症候群の診療ガイドライン」で,高安動脈炎の改訂診断基準が示されている。臓器乏血症状とCTやMRIなどの画像陽性所見に加えて,梅毒や血管ベーチェットなど他疾患を除外することが重要である。CTやMRIでは,形態的変化として限局性またはびまん性狭窄,限局拡張からびまん性拡張,念珠状拡張が,炎症性変化として壁肥厚や造影効果が認められる。2018年4月からは,一部のPET施設において,他の検査で判断が困難な場合に保険適用のもとでの18F-FDG PET検査が可能となった。血管の活動性炎症部位への18F-FDG PET集積をみることで,診断や臨床的活動性評価に有用と考えられている。
内科的治療の基本はステロイドで,初期治療はプレドニゾロン0.5~1.0mg/kg/日を2週間以上継続後,臨床症状および検査所見の改善を評価しながら,プレドニゾロン量を漸減する。可能な限り減量を試みるが,中止は困難で5~7.5mg/日が維持量となるケースが多い。緊急性の高い場合には,ステロイド開始に先立ってステロイドパルス療法を施行することもある。
免疫抑制薬はステロイドとの相乗効果やステロイドの減量効果を期待して,ステロイド併用で使用する。最近では早期から開始されることも多く,難治例では免疫抑制薬の多剤併用や,生物学的製剤と免疫抑制薬の併用を行うこともある。免疫抑制薬は,メトトレキサート,アザチオプリン,タクロリムスなどがよく用いられ,生物学的製剤ではIL-6阻害薬が保険承認されており,未承認であるが腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)阻害薬も用いられることがある。
大動脈炎症候群では,抗血小板薬(アスピリン)内服で,急性心筋梗塞や不安定狭心症,一過性脳虚血発作,脳卒中,急性下肢虚血などの急性虚血イベントの発症が減少すると報告されており,有意な狭窄性病変がある場合には,禁忌がなければ抗血小板薬内服を併用する。
器質的血管狭窄や大動脈弁閉鎖不全は,回復することは難しく,バイパス手術やバルーン拡張術などの外科的治療法を選択することになる。炎症が残存する血管に対する手術は,術後合併症や再狭窄をきたしやすいため,適応や時期,術式に関して血管外科医と慎重な相談が必要である。
高安動脈炎はプレドニゾロン減量に伴って再燃しやすく,再燃予防や再燃時対応は重要である。症状や血液検査上の急性炎症反応(CRPや赤沈など),画像所見を組み合わせながら,再燃を評価する。プレドニゾロン10~15mg/日程度で再燃しやすいことが知られており,減量スピードは慎重に検討する。再燃した場合には,重症度に応じて,再燃した時点でのプレドニゾロン量の1.5~2.0倍程度に増量するか,初期治療量から再度開始する。そのままステロイドを減量すると同程度のステロイド量で再度再燃することが多く,免疫抑制薬の追加,変更などの対処が必要である。
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