定義に明確なものはなく性別で差があるものの,一般的に高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)≧100mg/dLを高HDL- C血症とされる。高HDL-C血症の原因としては,コレステロールエステル転送蛋白(cholesteryl ester transfer protein:CETP)欠損症などの遺伝性と,長期大量飲酒や原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cholangitis:PBC),慢性閉塞性肺疾患などの二次性がある。疫学研究において,HDL-Cが心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)発症と負の相関関係があることから,高HDL-C血症は長寿症候群と考えられていた。しかし,CETP阻害薬やニコチン酸を使ったHDL-C増加治療の介入試験でCVD抑制効果を認めなかった1)ことや,わが国の9つの疫学コホート研究のメタ解析であるEPOCH-JAPANにおいても,90mg/dL以上の高HDL-C血症がアテローム性CVDによる死亡リスクの増加や冠動脈疾患および脳梗塞リスクの増加と関連することが報告されるなど2),著明なHDL-C血症が必ずしも抗動脈硬化的ではないことが明らかになってきた。したがって,二次性高HDL-C血症の原因疾患の特定は必要なものの,原発性高HDL-C血症それ自体への介入についてのコンセンサスは得られていない。
高HDL-C血症が認められた場合には,原因の検証を行う。
二次性:長期大量飲酒とPBC,慢性閉塞性肺疾患,運動,薬物(副腎皮質ステロイドやエストロゲン製剤)などが原因となる。PBCの場合は初期に合併しやすく,肝硬変を合併すると低脂血症を呈する。
原発性:CETP欠損症と肝性リパーゼ欠損症が挙げられる。特に前者は,諸外国に比較して頻度が高く,原発性高HDL-C血症の大多数を占める。原発性HDL-C血症が疑われる場合には家族歴を聴取する。
CETPはHDLからアポB含有リポ蛋白へのコレステロールエステル(cholesterol ester:CE)の転送および逆方向へのトリグリセライド(triglyceride:TG)の転送が阻害されるため,高HDL-C血症・低LDL-C血症を呈する。HDLにCEが蓄積して通常は認めない大型のHDL(HDL1)が出現し,TGに富んで粒子サイズが多様化する。CETP欠損症ホモ接合体のHDL-C濃度は,健常者の3~4倍と著明高値となる。HDLの構成アポ蛋白の中でApo A-Ⅰは約2倍に増加し,Apo A-Ⅱは軽度から中等度程度の増加にとどまる。LDL-Cは軽度から中等度低下し,Apo C-Ⅱ,Apo C-Ⅲ,Apo Eがいずれも2倍以上に増加する3)4)。
数例の報告があるのみで,きわめて稀な疾患である。その血清脂質異常はⅢ型高脂血症に類似し,コレステロールとTGが高値になり,超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein:VLDL)増加やβ-VLDLの存在,LDLやHDL粒子のTGの割合が多いとされる3)4)。動脈硬化をきたしている例もあるとされるが不明な点が多い。
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