日本動脈硬化学会「脂質異常症治療ガイド2013年(2017年改訂第3版)」に準じ,総コレステロール(total cholesterol:TC)120mg/dL未満,トリグリセライド(triglyceride:TG)30mg/dL未満,low density lipoprotein cholesterol(LDL-C)70mg/dL未満を基準とし,high density lipoprotein cholesterol(HDL-C)の場合は40mg/dL未満を低脂血症と診断する1)。
原発性低脂血症は稀であり,二次性低脂血症が大部分を占め,基礎疾患の有無について評価することが重要である。二次性低脂血症が除外され,原発性低脂血症に特徴的な臨床所見や家族歴がある場合には原発性低脂血症が疑われる。保険適用となる検査では確定診断は困難であるため,専門施設に紹介を検討する。
二次性低脂血症の原因となる甲状腺機能亢進症では,甲状腺ホルモンがLDL受容体発現を上昇させ,LDLの異化亢進を介して低脂血症を呈する。炎症性腸疾患,慢性膵炎などによる吸収障害や,長期の中心静脈栄養(intravenous hyperalimentation:IVH)管理による低栄養による低コレステロール血症も臨床ではしばしば遭遇する。肝疾患,特に慢性C型肝炎では低コレステロール血症になることが知られ,血液疾患において溶血性貧血,ホジキン(Hodgkin)病,急性骨髄性白血病などで低コレステロール血症を呈する場合がある2)。
基礎疾患が明らかな場合には,原疾患の治療を優先する。一方で,二次性低HDL-C血症では高TG血症,糖尿病,肥満,喫煙,運動不足などが原因として挙げられる。二次性の低LDL-C血症や低TG血症の治療についてはそれ自体に介入の必要はなく,原疾患の特定や治療を必要に応じて行う。二次性低HDL-C血症に対しては有効な薬剤があまりなく,HDL-Cのみ低値で他の脂質異常を伴わない場合には冠動脈疾患のリスクが高くないという報告があることから3),LDL-C,non-HDL-C,TGの管理を行った上で,基本的には生活習慣の改善で対処する。
ミクロソームトリグリセライド転送蛋白(microsomal triglyceride transfer protein large subunit:MTP)の遺伝子変異によりMTP活性が低下し,カイロミクロン,超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein:VLDL),LDLが生成されず,著しい低コレステロール血症および低TG血症を呈する。日本人の報告は10家系程度ときわめて稀である。血清Apo-B濃度が欠損しており,MTPに遺伝子変異を同定し診断する。治療として脂溶性ビタミン,特にビタミンEの補充療法が重要である。消化器症状を回避するために脂肪の摂取制限を行い,乳児の栄養障害に対しては中鎖脂肪酸トリグリセリド(medium chain triglcerides:MCT)のミルクを用いる。
FHBLの過半数はApo-B遺伝子の塩基置換または欠失に起因するが,そのほか,PCSK9やANGPTL3の機能欠失変異に起因するものがある。ABLと異なり,ヘテロ接合体においても軽度~中等度(50~100mg/dL)の低コレステロール血症を認める。FHBLホモ接合体はABL類似の症状を呈しうるが,一般にABLほど重篤ではない。APOB,PCSK9,ANGPTL3の遺伝子変異を同定により診断可能だが,変異を同定できないFHBLも少なくない。併存疾患がない場合には治療を要しない。しかし,高度の脂肪肝を合併する場合には,肥満の是正や脂肪の摂取制限を指導する。
小胞体からゴルジ体にカイロミクロンを輸送するのに必要なsmall G蛋白であるSar1bの欠損に起因し,きわめて稀な疾患である。脂肪を経口負荷しても血中TGの上昇はほとんど認められず,臨床症状はABLに類似する。血清TCとLDL-Cが顕著に低下する一方,血清TGが正常範囲であり,SAR1Bの遺伝子変異を同定する。治療はABLに準じる。
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