悪性中皮腫は体腔内面を広く覆う中皮細胞から発生する悪性腫瘍で,全悪性腫瘍の約0.2%を占める。胸膜が80~85%,腹膜が10~15%,そのほかの部位での発生は1%以下とされる。同じように腹膜から発生するがんである,腹膜癌とは別の疾患である。
2018年9月に報告されている厚生労働省の人口動態統計に基づく中皮腫による死亡数の年次推移をみると,2017年の中皮腫による死亡総数は1555人であり,1995年の死亡総数500人と比較して3倍と年々増加している。悪性中皮腫の発症原因としてアスベスト(石綿)が疫学的に知られているが,胸膜中皮腫(70~90%)と比較して腹膜中皮腫(50~60%)では少し関連性が弱く,女性の悪性中皮腫に関してはさらに低い(20~30%)可能性が示唆されている。曝露後20~40年前後の潜伏期間を経て発症することが報告されており,1970~80年代からアスベストが使われていた過去の経過をふまえて,日本では2020~30年代が発症のピークと考えられている。
腹腔内に病変があるため,早期には症状が出ないことが特徴である。進行すると腹水貯留による腹部膨満感や腹痛,腰背部痛,食思不振,排便異常や腹部腫瘤等の腹部症状を呈する。
悪性腹膜中皮腫は,採血や画像検査では確定診断にならず,生検での確定診断が必要となる。
しかし,採血や画像検査も疾患を鑑別するための一助となるため重要な検査といえる。同様に腹膜病変を起こすことが多い,消化器癌や婦人科癌,腹膜癌を除外するために,上下部の内視鏡検査や婦人科の診察を行うことも重要である。
採血:腫瘍マーカーのうちCA125やCA15-3等が高いことが多く,逆にCEA上昇は中皮腫らしくない特徴と考えられている。そのほかの腫瘍マーカーとして,可溶性メソテリン関連ペプチド(soluble mesothelin-related peptides:SMRP)も中皮腫に対する腫瘍マーカーとして注目されており,診断の補助や治療効果判定に用いられている。
画像検査:腹部超音波やCT等の画像検査にて,腹水や腹膜の結節や肥厚などが認められることがあるが,腹膜中皮腫に特異的な画像所見は存在しない。
細胞・組織診断:腹水検査や腹水細胞診も診断の助けにはなるため,腹水貯留例では腹水の細胞診,特にセルブロック法による検査を行うことが検討されるが,中皮腫を疑う腹水検査所見を示すのは5割程度と言われており,診断に確定的な検査とは言えない。よって,診断のためには組織生検が必要と考えられる。超音波やCTガイド下に病変が疑われる部分を安全に生検できた場合では,9割程度で正確に診断が可能だったという報告もあり,生検可能部位に病変があれば積極的に生検を行っていく。
組織の免疫染色にてカルレチニン(calretinin),サイトケラチン(cytokeratin:CK)5/6,Wilms tumor protein-1(WT-1)が陽性であるものが多く,CEAは陰性であるものが多い。
生検結果をもとに病理組織検査を行った場合,上皮型,肉腫型,さらにそれらが入り混じった二相型の3タイプにわかれ,特に上皮型で,経過や治療反応性が良好であることがわかっている。
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