【産業医の基本スキルとしての曝露評価】
日本産業衛生学会は生物学的モニタリング(BM)を「労働の場において,有害因子に曝露している労働者の尿,血液等の生体試料中の当該有害物質濃度,その有害物の代謝物濃度,または,予防すべき影響の発生を予測・警告できるような影響の大きさを測定すること」と定義している。
わが国では1980年代に職域化学物質の一部にBMが導入され,世界に先駆け,法律により職域において個人曝露量を評価する取り組みが始まった。現在では,有機溶剤および特定化学物質の一部,鉛に加え,行政指導に基づくBMがいくつかの物質で行われている。今後も,実際の曝露状況や健康リスクの評価ができるBMの重要性はますます大きくなってくるであろう。
職域におけるBMを有効活用するためには,測定対象物質の特性を理解し,適切な検体採取タイミングを設定しなければならない。さらに,作業環境測定を実施していれば,その結果と照らし合わせて齟齬はないか確認することも産業医には求められる。また,全国労働衛生団体連合会主催の労働衛生検査精度管理調査などの精度管理事業に参加し,分析精度を維持している健診機関での測定であるかなども重要な視点となる。
働き方改革関連法案に伴う産業医機能の強化に伴い,基本業務としての作業環境管理・作業管理・健康管理の質をさらに高めていく必要があるだろう。
【参考】
▶ 川本敏弘, 他:産業医大誌. 2013;35特集号:97-106.
▶ Den Hond E, et al:Environ Health Perspect. 2015;123(3):255-63.
【解説】
佐藤博貴,上島通浩* 名古屋市立大学環境労働衛生学 *教授