腸間膜血管の血栓症,塞栓症または何らかの循環血流量減少によって腸管が虚血に陥った際の腸管組織障害を虚血性腸管障害と称する。腸間膜動脈主幹部の閉塞をきたす急性腸間膜動脈閉塞症,静脈に血栓をきたす急性腸間膜静脈血栓症,手術や全身状態悪化による腸管血流の低下および血管攣縮による非閉塞性腸梗塞症(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI),腸間膜動脈の狭窄がもととなる腹部アンギーナが代表疾患である1)~4)。高齢者で心血管系の基礎疾患を持つ症例が多く,依然として発症後の死亡率は高い。
発症形式が急性か慢性かの経過や,腸管虚血の原因別(閉塞点が腸間膜動脈か静脈か,可逆性か不可逆性か)・範囲などによって病態が異なるため,各疾患の問診や症状は重要であるものの,病態が症状として現れにくい場合もあり,診断には腹部造影CTが有用である。
急性腸間膜動脈閉塞症では,心臓由来の塞栓によるものが多く,上腸管動脈起始部の閉塞に伴う突然の強い腹痛を認める。腸管壊死が進行するにつれて,著明な腹部圧痛,筋性防御,筋硬直など限局性から汎発性腹膜炎の徴候が現れる。一方,何らかの凝固亢進状態を有することの多い腸間膜静脈血栓症の疼痛は徐々に出現し,腸間膜動脈の攣縮による,非閉塞性腸管虚血であるNOMIも疼痛は徐々に出現する。腹部アンギーナでは,動脈硬化による慢性的な血管の狭窄を背景に,食事による相対的な虚血による食後腹部不快感・腹痛が特徴である。
炎症所見以外に特異的なものはなく,鑑別診断に有用とは言えないが,腸管壊死のメルクマールとして,WBC,LDH,CPK,AMY,CRPの上昇や血液ガス分析による代謝性アシドーシスの進行や乳酸の上昇が有用である。播種性血管内凝固症候群(DIC)を念頭に置いた凝固異常にも十分な注意が必要である。
腹部X線検査は,本疾患の診断に有益な所見を認めず,腸閉塞の除外診断に役立つ。腹部超音波検査では,カラードップラー法にて腸間膜動静脈の血流を評価できるが,その診断精度は高くはない。血管閉塞の存在診断には,腹部造影CTが最も有用と考えられる。冠状断像の構築が必須で,さらには,より詳細な血管評価には3D-CTが非常に有効である。選択的腸間膜動脈造影も有用で,本症が診察上疑われるものの,造影CTで十分な所見が得られないときに施行すべきである。ただし,腹膜炎の徴候が認められない症例に限られる。
本症例を疑い汎発性腹膜炎の徴候があれば,腸管壊死の可能性から評価期間のいかなる時点においても診断的開腹術を行う。
残り875文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する