慢性便秘症の患者は疫学的に増加しており,特に高齢者の便秘患者の急増が注目されている。便秘症状をコントロールすることにより,患者のQOLの向上・改善が期待される。
慢性便秘症の診断は,患者の訴える症状よりなされる。一般に便秘とは,排便が順調に行われない状態を指す。排便回数が少なくなり,排便に際し苦痛を伴う状態をいう。排便回数が減少すると便の水分量が70%以下に減少し,便は硬くなる。臨床的には,3~4日以上排便がなく不快な症状があり,日常生活に支障がある場合を便秘という。日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会編集の「慢性便秘症診療ガイドライン」では,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されている。
慢性便秘症は,原因がはっきりしていないものと,はっきりしているものとに分類される。
原因がはっきりしていないものとして,機能性便秘症と便秘型過敏性腸症候群(便秘型IBS)が挙げられる。機能性便秘症とは,大腸,小腸に器質的異常がないにもかかわらず,排便困難,排便回数の低下,あるいは残便感が持続し,かつIBSの診断基準を満たさない機能性腸障害である。一方,IBSとは慢性的に腹痛あるいは腹部不快感があり,便秘あるいは下痢などの便通異常を伴い,排便によって腹部症状が改善するもので,その症状を説明する器質的疾患あるいは生化学的異常が同定されないものを指す。
原因のはっきりしている便秘としては,まず器質性便秘が挙げられる。これは,大腸癌などの腫瘍性病変,クローン病などの炎症性病変,術後の癒着などにより腸管に狭窄・閉塞が生じ,便秘の症状が発現するものである。次に挙げられるのが症候性便秘である。全身疾患によるもので,レビー小体型認知症,パーキンソン病などの神経疾患,甲状腺機能低下症などの内分泌疾患,糖尿病などによる代謝疾患,強皮症などの膠原病疾患により慢性便秘症状が発現する。さらに,薬剤による薬剤性便秘も注意が必要である。抗うつ薬,抗コリン薬,抗ヒスタミン薬,オピオイドなどの薬剤による便秘であり,高齢者では特に複数の薬剤を内服しているため詳細な問診が必要となる。原因がはっきりしている慢性便秘症では,原則的には原因の除去が必要となる。
慢性便秘症の診療においては,まず診断をつけ,診断に応じた食事療法,運動療法,薬物療法が選択される1)。病態を理解し,治療薬を適切に選択する必要があるといえる。
便秘を訴える患者が訪れた場合,まず問診を行う。直腸出血,体重減少,家族歴などの危険徴候がある場合には器質的疾患を疑い,大腸内視鏡検査を勧める。腹部単純X線検査,便潜血反応検査も器質的疾患の除外には有用である。腹痛,腹部不快感などの腹部症状を伴わない便秘は,機能性便秘症と考える。腹痛,腹部不快感などの腹部症状を伴う場合には,便秘型IBSと診断する。
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