コロナ(RNAウイルス)はα,β,γ,δの4種属に分類され,人に感染し風邪症状を惹起する弱毒性のものとしてα種の229E,NL63,β種のOC43,HKU1の4種類が知られている。これらに加え,2002年に中国南部から発生したキクガシラ・コウモリを自然宿主とするSARS-CoV-1(β種,severe acute respiratory syndrome coronavirus-1,強毒性),2012年に中東・アフリカで発生したヒトコブ・ラクダを自然宿主とするMERS-CoV(β種,middle east respiratory syndrome coronavirus,強毒性)が人感染性コロナとして存在する。以上の6種類に加え,今回,7種目の人感染性の新型コロナウイルスが中国湖北省武漢市から発生した(β種,severe acute respiratory syndrome coronavirus-2:SARS-CoV-2)。遺伝子全配列解析の結果,SARS-CoV-2武漢原株の自然宿主は野生コウモリ1),中間宿主は鱗を有する唯一の哺乳動物センザンコウ2)だと考えられている。WHO-China Joint Mission(2月24日発表)によれば,中国の異なった地域で100株以上の新型コロナが検出されたが,株間の相同性は99.9%と高く,新型コロナは多様性の少ないウイルスであった(変異速度:2.5塩基/1ヵ月3))。
新型コロナのRNA鎖は脂質二重膜で構成されるエンベロープに取り囲まれ,その表面に人細胞と結合するS蛋白(spike glycoprotein)が存在する(図1)。ウイルスが人に感染するためにはS蛋白がS1とS2に開裂され,S1に存在するRBD(receptor binding domain)が人細胞のACE2(angiotensin-converting enzyme 2)と結合する必要がある4)。次いで,S2が宿主細胞のTMPRSS2(transmembrane protease-serine 2)によって活性化され,fusion peptideを介して宿主細胞膜と融合する。最後に,RBDとACE2の結合がTMPRSS2によって切断されウイルスは宿主細胞内に侵入する。
ACE2発現に関連する臨床的要点は,①10歳未満の小児におけるACE2発現強度は他の年齢層に比べ低く,新型コロナ感染は小児に少ない5),②喫煙はACE2発現を増強6),③降圧剤のACE阻害薬(ACEI),アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)はACE2の発現を増加させるので7),新型コロナ感染を助長させる可能性がある。一方,ACE2の発現増加は肺損傷を抑制し新型コロナ感染の重症化を軽減する作用を有する7)。この二律背反的問題を解決するため種々の臨床的検討がなされ,ACEI,ARBは新型コロナの感染性,重症化を助長させる因子ではないことが判明した8)。