縦隔内にある臓器のうち,心臓,大血管,気管,食道を除いた胸腺,リンパ節,神経,迷入原始胚細胞を母地として発生する腫瘍および先天性囊胞,胸腔内甲状腺腫を縦隔腫瘍と呼ぶ。縦隔腫瘍の頻度は胸腺腫瘍(45%)が多く,ついで先天性囊胞(15%),神経原性腫瘍(13%),胚細胞性腫瘍(8%),リンパ性腫瘍(5%)とされている。発生年齢は小児から高齢者まで幅広く,また,良性のものから悪性のものまで含まれる。
縦隔腫瘍の約半数は無症状で,胸部X線検査では腫瘍径が小さな段階での発見は困難である。腫瘍が進行すると,咳嗽,呼吸困難,血痰などの呼吸器症状,上大静脈症候群,嚥下障害,胸痛,嗄声,Horner症候群など,周囲臓器への圧迫・浸潤による症状が出現する。胸腺腫は,重症筋無力症,低γグロブリン血症,赤芽球癆など,種々の自己免疫疾患を合併することがある。
診断のため,胸部X線検査,胸部造影CT,MRI,PET-CT検査を実施し,腫瘍の局在,内部の性状,周囲臓器への浸潤の有無などを評価する。縦隔腫瘍はその局在に特徴があり,診断のための重要な情報となる。腫瘍マーカーのAFP,β-hCGは胚細胞性腫瘍,抗アセチルコリンレセプター抗体(抗AChR抗体)(重症筋無力症)は胸腺腫瘍,可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)は悪性リンパ腫の補助診断となる。
確定診断には組織診断が必須である。CTまたは超音波ガイド下経皮的針生検,内視鏡下超音波ガイド下針生検が行われる。正確な診断が得られない場合は,縦隔鏡・胸腔鏡・外科的生検を実施する。胸腺上皮性腫瘍の場合,本腫瘍が疑われ切除可能ならば,確定診断を得ることを省略して外科的切除を行う1)。
胸腺上皮性腫瘍(胸腺腫,胸腺癌)は,正岡分類に基づいて治療方針が決定される1)。Ⅰ~Ⅱ期,切除可能なⅢ期例に対しては外科的切除が行われる。不完全切除となったものについては,術後放射線治療が推奨される。また,胸腺癌については,完全切除されたⅡ~Ⅲ期例に対して,術後放射線治療が提案される。完全切除が困難なⅢ期,Ⅳ期例に対しては,化学療法を主体とした放射線療法,外科療法との集学的治療が行われる1)。
縦隔発生の性腺外胚細胞性腫瘍(セミノーマ,非セミノーマ)は,進行性精巣胚細胞性腫瘍と同様に,IGCCCの予後分類に従って化学療法を主体とした集学的治療が行われる2)。
悪性リンパ腫に対しては,化学療法を主体とした放射線療法との集学的治療が行われる。
先天性囊胞および神経原性腫瘍は,ほとんどの場合良性腫瘍であることから,外科的切除が行われる。
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