【一般的な指標はFT4,TSHの正常化も目安】
通常,遊離型の甲状腺ホルモンFT3・FT4のうち,FT3を指標にすることも可能と考えられますが,一般的にFT4が指標として用いられます。「バセドウ病治療ガイドライン」1)でもFT4値を参考に甲状腺ホルモン高値の重症度に応じて投薬開始量を選択することが示されています。本症例では,チアマゾール(MMI)15mg/日から開始し,FT4正常化後に減量(10mg/日など)することがよいでしょう。
TSHは甲状腺ホルモン高値によるネガティブフィードバックによって抑制され低値となっているので,MMI治療によってさらに低下するのではなく,甲状腺ホルモンの正常化に伴いネガティブフィードバックが解除され,TSHは徐々に上昇し正常化すると考えられます。TSHが正常化したらさらにMMIを減量(5mg/日など)します。
FT3はFT4から活性型に変換された甲状腺ホルモンで,病勢が強い場合はFT4より正常値に入りにくい場合があります(T3優位型)。このような症例ではFT3の正常化に必要な量のMMIを投与します。FT4が下がりすぎた場合は甲状腺ホルモン製剤を併用するとコントロールしやすくなります1)。TRAbはバセドウ病の病勢を反映しますが,MMI投与量の指標には用いません。
バセドウ病では骨代謝が亢進しておりアルカリフォスファターゼ(ALP)が高値となるため,バセドウ病診断基準2)の付記にも「アルカリフォスファターゼ高値を示すことが多い」と記載されています。このようにALPは甲状腺機能亢進症と関係しますが,バセドウ病治療開始後の甲状腺ホルモンの低下とALPの低下の経過は完全には平行せず,治療開始後しばらく上昇し,数カ月をかけて甲状腺機能正常化に遅れて正常化する症例をしばしば経験します。バセドウ病治療開始後にALPの上昇を認めた場合,バセドウ病による骨吸収亢進によるのか,抗甲状腺薬の副作用によるのか判断に迷う場合もあります。副作用を疑うような他の肝機能異常がないか,あるいは,ALPのアイソザイム測定で,骨型が優位か,肝型が優位かをみることが参考になります。
この症例は,初診時に眼球突出を呈しており,バセドウ病眼症に対しても注意が必要です。喫煙はリスクであり喫煙者には禁煙を勧めます。TRAb・ TSAb高値も眼症のリスクとなります。初診時以外に治療経過中にもclinical activity scoreと呼ばれる眼症の活動性を示す所見(後眼窩の自発痛や違和感,上方視・下方視時の痛み,眼瞼の発赤・腫脹,結膜の充血・浮腫,涙丘の発赤・腫脹)がないか留意します3)。高齢者では眼突や眼瞼腫脹がそれほど目立たないのに複視が強い場合もあるので,注意が必要です。
また,TRAb・TSAb高値やT3優位型の症例では病勢が強く,内服治療を継続しても寛解が困難な可能性があります。1.5~2年以上の内服治療でも寛解に入らない場合,このまま内服治療を継続するか,放射性ヨウ素内用療法や外科治療へ変更するか検討します。判断が難しい場合,専門医に意見を求めるのもよいでしょう。なお,放射性ヨウ素内用療法後にバセドウ病眼症が悪化する場合があり,TRAb・TSAb高値例ではリスクとなります4)。放射性ヨウ素内用療法への変更を考える際には眼症の評価も必要となります。
【文献】
1) 日本甲状腺学会, 編:バセドウ病治療ガイドライン2019. 南江堂, 2019.
2) 日本甲状腺学会:甲状腺疾患診断ガイドライン2013. バセドウ病の診断ガイドライン.
[http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html#basedou]
3) 「バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準と治療指針」作成委員会:バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針 2018(第2次案).
[http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou02.pdf]
4) Watanabe N, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2015;100(7):2700-8.
【回答者】
渡邊奈津子 伊藤病院内科医長