2020年度の医学部入試は、国公立大・私立大医学部ともに受験者減となったが、依然として高倍率の難関であることに変わりはなく、受験者の減少は合格の可能性が低い生徒が受験を回避した結果というのが専門家の見方だ。今後の医学部入試は新たに始まる共通テストの影響もあり、これまで以上に早い段階からの志望校対策が合否のカギを握る。約40年の歴史を持つ医学部予備校として蓄積した各医学部のデータ分析に基づく丁寧な指導で国公立医学部にも多数の合格者を送りこんできた「東大螢雪会」の土井貴志教務部長に2020年度入試データを解説してもらおう。(日本医事新報特別付録・医学部進学ガイド「医学部への道2022」の全文はこちらから無料でダウンロードできます)
2018年に一部の大学の入試でいわゆる女子差別があるなど不適切入試問題が世間を騒がせたが、2020年度一般入試結果に基づき、各大学の男子のみの倍率と女子のみの倍率を比較すると、例えば順天堂大のA方式では、男子の倍率が9.1倍であるのに対し女子の倍率が9.8倍、北里大では男子の倍率が7.4倍であるのに対し女子の倍率が9.6倍、聖マリアンナ医大では男子の倍率が18.7倍であるのに対し女子の倍率12.6倍と、男子が優遇されているということはなくなっているようである。なお、ここでの倍率は、順天堂大A方式と北里大では受験者数÷最終合格者数、聖マリアンナ医大では受験者数÷正規合格者数で算出している。
また、例の騒動は各大学がHP等で入試結果を公表する際に数字をどの程度まで公表するのかということにも影響を与えているようである。順天堂大ではそれまで非公表であった最終合格者数を2019年度入試結果から男女の内数を含め公表するようになった。東京慈恵会医大も2020年度入試結果から同様の対応をするなど入試結果をより詳しく公表する大学も増えつつあるようである。
しかし、一方で男女の内訳はおろか最終合格者数すら公表しない大学も一部存在する。入試結果に関するデータの公表は各大学の裁量に任されているが、受験生の立場からするとせめて最終合格者数ぐらいは知りたいというのが本音ではないだろうか。今後は、前述のように可能な限り詳細な入試結果を積極的に公表してくれる大学が増えていくことが望まれる。なお、文部科学省ホームページの医学・歯学教育ページでは「各大学の医学部医学科の入学状況及び国家試験結果等」という名前のPDFファイルがアップロードされており、そのファイルを見ると各大学の最終合格者の数が把握できる。ただし、一般入試・AO入試・特別選抜等の合算の数値であり、掲載されている数値が即ち、一般入試の最終合格者数になるとは限らないので注意が必要である。
さらに、受験生としては、最終合格者数以上に合格者最低点の方を知りたいところであろう。しかしながら、国公立大学ではほとんどの大学が合格者最低点を公表しているのに対し、私立大学はまだまだそこまでには至っていないと言える。東大螢雪会が調べた限りでは2020年度一般入試における合格者最低点を公表している大学は以下のとおりである。
①1次試験合格者最低点も2次試験合格者最低点も公表
大阪医大(2021年4月より大阪医薬大)、久留米大、産業医大
※岩手医大は数字を公表していないが、当会の独自調査により1次と2次の合格者最低点が判明している。
②1次試験合格者最低点のみ公表
埼玉医大、慶應義塾大、昭和大、金沢医大、近畿大、川崎医大、福岡大
※聖マリアンナ医大は数字を公表していないが、当会の独自調査により1次の合格者最低点が判明している。
③合格者最低点として数字を公表
帝京大、東邦大、日本大、北里大、愛知医大、藤田医大、関西医大、兵庫医大
※東京慈恵会医大は合格者最低得点ではなく、合格者最低得点率を公表している。
この①〜③のいずれにも該当しない大学の過去問を演習しても、合格の目安となる点数がわからないので戸惑ってしまう受験生は多いのではないだろうか。適切な指導者がそばについていない限り、どれぐらいの点数を取るべきなのかの判断ができないだろう。受験生のために、合格者最低点についても今後より多くの大学が公表することが望まれる。
2019年度入試と2020年度入試を比較すると、やや倍率が下落した大学が目につく。とはいえ多くの大学が10倍を超える高倍率であることは変わらず、また、減少分の受験生の多くは成績が振るわないために医学部受験を諦めてしまったという印象があり、従来よりも医学部に入りやすくなったということは微塵もない。これまでと変わらず、豊富な幅広い知識が要求され、これまで培ってきたものを試験の場において適切に発揮しないと合格を勝ち取ることはできない。
2021年度入試はコロナ禍の中での入試という、より緊張を強いられるシチュエーションでの入試である。受験生によっては普段受けていた形式での模試を受けることができず、自宅受験ばかりであった者も多いと思われる。そのため、集団で試験を受けるということ自体がひさびさで、いわゆる試験慣れしていない状態で受験しなければならず、その上、新型コロナウイルス感染症に罹患しないように注意しなければならないという、精神的にも肉体的にも相当厳しい戦いになりそうである。
二段階選抜(いわゆる〝足切り〟)の隔年現象(二段階選抜が実施される年と実施されない年が交互に発生する現象)を見てみると、以下のとおりになる。
①隔年現象により2021年度入試で二段階選抜が行われる可能性が高い大学
旭川医大(後期)、群馬大(前期)、信州大(前期)、福島県立医大(前期)、和歌山県立医大(前期)
②隔年現象により2021年度入試で二段階選抜が行われる可能性が低い大学
秋田大(前期)、東京医歯大(前期)、金沢大(前期)、浜松医大(後期)、高知大(前期)
間もなく2021年度入試から新たに実施される大学入学共通テストが始まる。これまでの大学入試センター試験から問題形式等がかなり変わるため、多くの受験生が非常に不安な気持ちで試験日を迎えたようである。新型コロナウイルス感染症の影響に伴う学業の遅れが考慮され、試験日程は以下のとおりとなった。ただし、本試験の志願者数を見ると、1月16日(土)および17日(日)では5万34527人、1月30日(土)および31日(日)では718人と圧倒的多数の受験生が従来どおりの日程を選択しており、試験日程が二つになったことの影響はほとんどなさそうである。
センター試験の英語の配点は筆記200点、リスニング50点と、その比が4:1であったが、共通テストではリーディング(「筆記」から名称が変更)100点、リスニング100点であり、その比が1:1となっている。ただし、各大学において共通テストの結果を使用する際に、リーディングとリスニングの比を3:1や4:1として、従来どおりかそれに近い取り扱いをしている場合の方が多いようである。
とにかく共通テスト初年度であるので、国公立大学医学部入試において、センター試験のときでは9割前後であったボーダーライン得点率が、今年度はどのようになるのか見当もつかない。例年並みに収まるのか、それとも下がるのか、下がるとすればどの程度下がるのか、蓋を開けてみないと何とも言えない(試験の難易度について、センター試験では平均点が6割程度になるように問題が作成されていたのに対し、共通テストではそれが5割程度になると言われているが、大学入試センターが公式にこのことを認めているわけではない)。
ほとんどの受験生は大手予備校で実施される共通テストリサーチの結果を頼りに最終的な出願校を決めることになるが、なかなか難しい判断になる受験生が多そうである。今回の入試では共通テストの自己採点結果、自分の学力、出願を検討している大学の過去問との相性などに加え、感染リスクを高めない観点から、公共交通機関を利用するか否か、利用する場合はどの程度の時間までの利用であれば許容するのか、などといったことも考える必要があるだろう。これまで以上に緊張を強いられる状況の中で、いかに自分の力を出し切ることができるのか、何が起こっても動じないような強い気持ちをもって試験に臨まなければならない。
(2021年1月4日記)
東大螢雪会教務部長 土井貴志