食道裂孔ヘルニアとは,横隔膜の食道裂孔から腹腔内臓器が胸部へと脱出した状態であり,脱出臓器のほとんどは胃である。脱出の形態により,食道胃接合部が横隔膜上に逸脱する滑脱型(sliding type),食道胃接合部は横隔膜下にとどまり胃穹隆部や大弯側が縦隔内へ逸脱する傍食道型(paraesophageal type),両者の混在する混合型(mixed type),食道胃接合部や胃のみでなく腸管,大網,肝臓,脾臓などの脱出を伴う巨大型(giant paraesophageal type)に分類される。成因には肥満,妊娠,慢性的な咳嗽,亀背などによる腹圧上昇と食道裂孔の開大などが関与している。
食道裂孔ヘルニアそのものによる固有の自覚症状はないが,合併する疾患により症状を生じる。滑脱型では胃食道逆流防止機能の障害が生じ,胃内容物の食道への逆流が生ずる場合があり,約半数に胸焼けや悪心,誤嚥などの胃食道逆流症状を呈する1)。傍食道型では逆流防止機構が温存されるため,逆流の問題は少ないが,ヘルニア囊による下部食道の圧排や,軸捻転に至ることで胸痛や通過障害を訴えることがある。また,大型のヘルニアでは食道裂孔貫通部胃粘膜に潰瘍(Cameron潰瘍)が生じ,消化管出血や貧血を呈することがある2)。それ以外にも,肺や心臓の圧迫による呼吸器症状や不整脈,咽喉頭異常感などの食道外症状を呈することもある。混合型では両者の病態が表現される。
X線造影,内視鏡,食道内圧測定の所見に基づき,食道胃接合部が横隔膜より口側に存在することが確認できれば診断可能である。食道胃接合部はもともと可動性の高い領域であり,呼吸の状態や胃内の状況によって大きく変化するため,逸脱が小さな場合は診断が困難なこともある。
X線造影:滑脱型では,His角が鈍化し,臥位でバリウムの食道内逆流が認められる。軽度の場合,下部食道膨大部との鑑別が必要で,ヘルニアでは呼吸により大きさがあまり変わらないことが参考になる。傍食道型では横隔膜上に脱出したヘルニア囊が認められるが,立位ではヘルニア内バリウム貯留が少ないので,臥位を加えた後に再立位にする。傍食道型では内視鏡で診断できることは少なく,X線造影が最も感度が高い。
内視鏡:順方向の観察で食道側からヘルニア囊が確認できる。また,胃内に挿入した内視鏡を反転させ,噴門部の開大度を評価して診断する。検査の際に逆流性食道炎やバレット食道の有無も観察できる。
食道内圧測定:high resolution manometry(HRM)は,下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)と横隔膜脚(crural diaphragm:CD)を同定でき,正常ではLESとCDは一致する。食道裂孔ヘルニアでは,LESとCDが分離することで診断できる。
残り1,196文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する