倦怠感とは,身体・精神的に「だるい」「疲れやすい」と感じる状態である。疲労は日本疲労学会により「過度の肉体的および精神的活動,または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」1)と定義されている。
西洋医学的に倦怠感の原因は器質的疾患と心因性疾患に分類される。前者は貧血,肝疾患,内分泌・代謝疾患,感染症,栄養障害,悪性腫瘍,低血圧症など日常診療のほぼすべての疾患に診られる。
一方,倦怠感は漢方医学的には「気」の異常が原因と考えられる。気とは生命活動を営む根源的エネルギーで,先天の気(腎の気)と後天の気(呼吸・消化吸収により得られる気)の2つから成り立っている2)。この気の消耗や産生障害が生じると量が不足し「気虚」となる。気虚は,全身倦怠感のほか,精神活動低下,神経循環脱力症,内臓下垂,性欲低下など,生命体の活力低下として表現される2)。客観的・定量的には寺澤の気虚スコア(「身体がだるい:10点」など14項目のスコアの総計で評価)2)を用い病態を認識できる。スコアの計30点以上が気虚とされるが,本例では初診時54点が廃薬時14点と改善している。
治療は,人参湯類,桂枝湯類(表)が挙げられる2)。いずれも「中=お腹」を補い,後天の気を補充(益気)する方剤である。使用した補中益気湯には4つの構成要素がある3)。人参・黄耆の補気薬を中心に①健脾益気の作用,②補血作用,③升提作用,すなわち,筋トーヌスの弛緩状態を改善する(図)。さらに④脾(=消化機能)が高まることで栄養・免疫が改善する。この作用で慢性消耗性の微熱にも有用である。
本例は帯状疱疹罹患後で微熱はないものの慢性消耗状態に発生した倦怠感と考え,補中益気湯を処方した。