高血圧症はわが国で最も罹患者が多い疾患であり,推定4300万人と考えられている。その高血圧症の10%近くを原発性アルドステロン症(PA)が占めるとの報告が相次いでいる。PAは,必ずしも低カリウム血症を示さず,臨床的には高血圧のみが特徴であることが多い。PAの主な病型は,腫瘍性病変である手術適応のアルドステロン産生腺腫と,両側過形成病変であるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)を含む薬物治療対象の特発性アルドステロン症であるが,低レニン性本態性高血圧(LREH)と臨床上鑑別が困難なことも多い1)。最近,新規MRBのわが国における治験も行われ,LREHにはMRBがより降圧に有効であることが確認された2)。また食塩摂取過剰,食塩感受性高血圧等ではLREHとなりやすく,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬/アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ARB/ACEI)の効果が減弱することも知られているので,PAのスクリーニングは降圧薬の選択にも有用と考える。
アルドステロンは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の日内変動に従って,朝高く夜間は低下するので,PAは早朝高血圧と夜間尿を伴いやすい。150/100mmHg以上の高血圧,低カリウム血症を伴う高血圧,ARB/ACEIで治療中の高血圧患者の血清カリウム値<4mEq/L,40歳未満の高血圧はPAのスクリーニング対象となる。若年のPAでは,拡張期のみが上昇する高血圧が多い。若年女性のPAでは,典型的なアルドステロン産生腺腫症例でも,低カリウム血症を高血圧より先行して呈する症例も多い。
高血圧診療で,血清ナトリウム,カリウム濃度とともに,随時尿の尿中ナトリウム,カリウム濃度,尿中クレアチニン濃度を測定することは治療上有用である。6×尿中ナトリウム濃度/尿中クレアチニン濃度から1日の食塩摂取量を概算でき,血清カリウム値<4mEq/Lかつ尿中カリウム濃度/尿中ナトリウム濃度>0.3ならPAや腎血管性高血圧,クッシング症候群,漢方薬の甘草による偽性アルドステロン症等のミネラルコルチコイド受容体(MR)が活性化された高血圧を示唆する。
血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration:PAC)/血漿レニン活性(plasma renin activity:PRA)比(aldosterone renin ratio:ARR)(pg/mL/ng/mL/時)>200でスクリーニングし,カプトプリル50mgの内服を行い,90分(または60分)後のARR>200(PACの単位がpg/mLの場合,ng/dLでは>20),または生理食塩水2Lを4時間かけて点滴静注し,安静臥位または坐位で採血,負荷後のPAC>60pg/mL(6ng/dL)ならPAと診断する1)。
PAは同じ血圧の本態性高血圧症に比較して,心血管合併症(心筋梗塞,脳卒中,心房細動等の不整脈や心不全)と腎障害の相対リスクが高いので注意する。PAC>200pg/mL,PRA<0.5ng/mL/時かつ血清カリウム<3.5mEq/Lの低カリウム血症を伴う場合は,手術適応のアルドステロン産生腺腫である可能性が高い。手術を希望する場合は,造影CT(副腎腫瘍とともに副腎静脈も描出する),副腎静脈サンプリング(AVS)を行い,AVSでの局在診断にて片側病変なら,腹腔鏡視下片側副腎摘出術を行う。手術を望まない場合や手術適応のない両側過形成病変ではMRBを含む降圧治療を行う。
PAのスクリーニング・診断中の降圧薬は,カルシウム拮抗薬and/or α1遮断薬を用いるが,低カリウム血症がある場合はカリウム製剤内服で極力血清カリウム値≧3.5mEq/Lを維持して補正する。低カリウム血症ではPAC分泌を過小評価するので注意する。
PAの薬物療法では多くの場合,カルシウム拮抗薬にMRBを追加していく。MRBのうちスピロノラクトンは,MR以外のステロイドホルモン受容体アゴニスト作用があり,乳房痛,女性化乳房,性欲減退,勃起障害,月経痛などの月経異常等の副作用があり,基本的には閉経後の女性患者に用いる。エプレレノンと新規MRBのエサキセレノンはMRの選択性が高く,このような副作用はないので,男性患者,閉経前女性患者に用いるが,ともにカリウム製剤との併用が禁忌となっている。エサキセレノンはエプレレノンでは禁忌とされたアルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者3)や中等度腎機能障害患者(eGFRが30mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満)にも使用できるため4),今後使用頻度が増加すると期待されている。
PAのMRBを含む薬物治療ではBP 130/80mmHg未満,PRA>1,血清カリウム値>4を目安にMRBを増量,ARB/ACEIの追加等を考慮して治療する。PA患者の心房細動等の不整脈リスクは高いので頻脈があればアーチスト®錠,メインテート®錠の追加も考慮する。
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