本稿は呼吸器科医ではない方々を対象としている。そのため,先端的・専門的知見は割愛し,日常臨床に導入すべき項目を主とし,また小児科領域は取り扱わないこととした。さらに踏み込んだ情報入手には『喘息予防・管理ガイドライン2018』『アレルギー総合ガイドライン2019』などを参照頂きたい1)2)。
さて,非呼吸器科医には気管支喘息を面倒な疾患ととらえる向きがあるかもしれないが,1990年以降の吸入ステロイド普及により一部の難治・重症喘息を除き対応に難渋する症例は減少している。ただし,喘息有症率は小児では減少傾向を示すが,成人総患者数は減じていないことは押さえておきたい事実である。
以下,成人気管支喘息診療の必須項目を記述する。
気管支喘息はTヘルパー2リンパ球や2型自然リンパ球などが引き起こす2型免疫反応が中心的病態とされている。定型例では発作性に呼吸困難・喘鳴・咳嗽などを認めるが,単一の決定的診断法はないため他疾患の除外が重要であることを強調しておきたい。
喘鳴の有無,呼吸器症状の日内変動性や季節性などの一般事項を確認し,必ず,喫煙,ペット飼育,発症年齢を質問する。当然ながら喫煙は絶対禁止である。毛や羽毛を有するペットの屋内飼育は多少とも悪化に関与する。また,小児期からの喘息罹患症例では,服薬(吸入)のアドヒアランスが不良となる傾向が高いことを意識しておきたい。
発症年代は重要である。喘息においても臨床表現型(フェノタイプ)が積極的に検討されているが,その先駆と言えるのは秋山らによる発症年齢による分類であろう3)。当時はフェノタイプという用語は使用されていなかったが,小児喘息が成人まで継続する型,小児喘息が一時改善後に成人で再悪化した型(成人再発),成人後に初めて発症した型,という3者に分類している。とても簡潔な分類で,文献的裏付けは少ないもののそれぞれの型による特性を有すると思われる。成人後再悪化症例では喫煙者が大半であることを実感する。
ヒューヒュー,ゼーゼーという異常呼吸音・喘鳴を発し,呼気延長を生じている症例でも喘息と思い込む前に,喘鳴やwheezingは吸気主体なのか,呼気主体なのか,両者なのか,を確認したい。多くの報告があるように吸気時主体喘鳴は中枢気道閉塞病態,主に肺癌を疑う所見である。その際でも吸入β2刺激薬投与により呼吸困難が軽度改善することもあるが,通常の気管支喘息への効果までには至らない。気管に進展した腫瘍では窒息の危険度が高く確実な鑑別を要する。
喘息の肺野聴診所見であるwheezingは多彩な音から構成され(polyphonic),聴診部位によって音調が多彩であり変化する。一方,中枢気道閉塞病態では肺野よりも鎖骨上窩に最強音を呈する。また自覚的に軽症喘息であっても,深く一気の強制呼気を指示することで異常音を確認しやすくなる。なお,wheezingは好酸球性肺炎やアレルギー性気管支肺アスペルギルス症などの他疾患でも発生しうる聴診音である。