バセドウ病は,甲状腺のTSH受容体に対する自己免疫異常で産生される抗体刺激により,甲状腺ホルモン過剰→代謝亢進をきたす疾患群である。眼窩内組織への交差的自己免疫異常により特徴的な眼症も併発する。若年女性に好発するが,性別問わず全世代で発症する。薬物・放射線・手術の3種の治療法は確立し,適切に治療すれば基本的に良性の疾患であるが,対応を誤ると甲状腺クリーゼといった致死的状態になりうる。
日本甲状腺学会が策定したガイドラインはよくまとめられているが,疾患全容のとらえ方・治療法ごとの長短・妊娠~出産のとらえ方により,治療選択・用量調節・治療法の変更・中止法などには,個々の症例と医師の個性がかなり反映される。
日本甲状腺学会が策定した診断ガイドライン(表)1)をもとに診断するが,ポイントは,FT4高値,TSHの測定感度未満(0.1μU/mL以下)への抑制,TRAb(またはTSAb)陽性である。
破壊性甲状腺炎(無痛性,亜急性,薬剤性),機能性甲状腺結節,稀であるがTSH産生腫瘍などとの鑑別が重要である。
わが国では,新規治療のほとんどの患者が抗甲状腺薬で開始される。薬剤副作用,巨大甲状腺腫,早急な改善が必要,患者の強い希望などの際,131I内用や手術を考慮する。
抗甲状腺薬の作用機序はホルモン合成阻害であり,チアマゾール(MMI),プロピルチオウラシル(PTU)の2種類があるが,初期効果や単回投与可能な点などから,特段の理由(妊娠・授乳など,後述)がない限り,MMIが第一選択とされる。
無機ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料でありながら大量投与するとホルモン合成を抑えることから,重症例におけるMMIへの追加薬として,わが国の治療ガイドライン2)に掲載されるようになり,副作用出現時や急速に甲状腺機能の改善が必要な場合(特にクリーゼ時)には,古くから必須の方法とされている。ただし,用量調節の概念が当てはまりづらく,効果の消失(エスケープ)が発生した際の次の一手が難しいという弱点がある。
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