合併症や心血管系(CV)リスクのない、メトホルミン服用2型糖尿病(DM)例に対する、至適追加血糖低下薬は必ずしも明らかではない。エビデンスがないためである。このエビデンスの空白を埋めるべく行われた大規模ランダム化試験(RCT)“GRADE”が6月29日、完全バーチャルで開催された米国糖尿病学会(ADA)学術集会で、John M. Lachin氏(ジョージ・ワシントン大学、米国)らにより報告された。製薬会社からの資金提供を受けず、最長7.8年間にわたる観察から示唆されたのは、GLP-1アナログの優位性だった。
なお、報告時点では、10%のイベントが判定委員会による確認(adjudication)を受けていないため、今回のデータはあくまでも「予備的」(Lachin氏)ということだ。
GRADE試験の対象は、メトホルミン単剤服用下で「HbA1c≧6.8%」だった、罹患期間10年未満の米国在住2型DM例のうち、メトホルミン最大2g/日服用の導入期間(6~12週間)後も「HbA1c:6.8~8.5%」の5047例である。平均年齢は57.2歳、HbA1c平均値は7.5%、平均罹患期間は4.2年だった。推算糸球体濾過率は平均で95mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン(A/C)比平均は31.5mg/gCrである。
これら5047例は、メトホルミン忍容最大用量を継続の上、SU剤(グリメピリド)群とDPP-4阻害薬(シタグリプチン)群、GLP-1アナログ(リラグルチド)群、インスリン(グラルギン)群にランダム化され、非盲検下で観察された。血糖低下薬はそれぞれ、忍容最大用量まで増量した。
上記薬剤はすべて、参加者に無償で提供された。なお、SGLT2阻害薬が含まれていないのは、本試験計画時に米国では未承認であり、承認後もしばらくは安全性に懸念があったためだとDavid M. Nathan氏(マサチューセッツ総合病院、米国)は説明した。
代謝1次評価項目である「HbA1c≧7%」(管理失敗)発生率は、インスリン群:67%、SU剤群:72%、GLP-1アナログ群:68%、DPP-4阻害薬群:77%となり、DPP-4阻害薬群ではほか3剤のいずれと比べても、管理失敗率が有意に高かった。またSU剤群も、インスリン群とGLP-1アナログ群に比べると、管理失敗率は有意に高かった。インスリン群とGLP-1アナログ群間に有意差はない。これらの結果は、「白人」、「黒人」、「その他人種」に分けて検討しても同様だったと、Lachin氏は述べた。
注目のCV転帰は、最長7.8年間観察(中央値、平均値とも5年)で「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(MACE。当初より検討予定)の発生率は、インスリン群:4.2%、SU剤群:3.4%、GLP-1アナログ群:2.8%、DPP-4阻害薬群:4.3%だった。カプランマイヤー曲線はGLP-1アナログ群の発生率がほか3群に比べ低く見えるが(報告者のJohn B. Buse氏[ノースカロライナ大学、米国])、Log-rank検定のP値は0.147だった。
一方、Buse氏が今回詳細に報告した「全CVイベント」(上記MACE+心不全入院、要加療不安定狭心症、一過性脳虚血発作、血管への介入、ステント血栓症)は、GLP-1アナログ群(5.8%)で、インスリン群(7.6%)とSU剤群(8.0%)、DPP-4阻害薬群(8.6%)の3群併合に比べ、有意に低値となっていた(P=0.048)。
最小血管症は「腎合併症」と「末梢神経症」に分けて検討したが、いずれも4群間に有意差は認められなかった。
重篤な有害事象発現率は、インスリン群:36%、SU剤群:37%、GLP-1アナログ群:33%、DPP-4阻害薬群:35%という結果だった。重篤低血糖の発現率は、インスリン群:1.4%、SU剤群:2.3%、GLP-1アナログ群:0.9%、DPP-4阻害薬群:0.7%と総じて低かったが、SU剤群では他群よりも有意に多かった。
本試験は、米国国立衛生研究所の国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)から資金提供を受けて実施された。