【抗甲状腺薬が効きすぎる症例に限り,やむをえずT4製剤を併用する】
結論から言えば,「少量の抗甲状腺薬〔たとえばチアマゾール(メルカゾール®5mg錠)を2日に1錠〕を投与していても甲状腺機能が低下してしまうが,完全に中止するとバセドウ病が再燃する」症例が存在した場合,抗甲状腺薬にT4製剤〔レボチロキシン(チラーヂン®S)など〕を併用することを専門医は行っています。もちろん抗甲状腺薬で機能低下症になるのは避けるべきです。それに加え甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)が上昇すれば甲状腺を腫大させ,TSH受容体抗体(TRAb)の免疫原性を増強しえます。したがって,そのような場合にT4製剤でTSHを抑制することに一定の意味はあります。
30~40年前にはこの考えをさらに拡張し,むしろ多めの抗甲状腺薬(たとえばチアマゾール5mg錠2~4錠/日)で内因性のT3,T4産生を抑制し,生体に必要な分をT4製剤で補うというblock &replacement therapyも行われました。しかしこの方法は抗甲状腺薬がやや高用量になりながら,最終的な寛解率を向上しませんでした。そのため,現在は抗甲状腺薬が効きすぎる前述のような症例に限り,やむをえずT4製剤を併用することが多いと思われます。
私自身はTRAbが比較的高値である場合,抗甲状腺薬によるTRAbの低下効果(個人差があります)を期待して同剤を継続し,必要最小量のT4製剤を併用することがあります。問題は①薬が増えるのは患者には嬉しくない点,②この方法で徐々にTRAbが減衰し甲状腺機能が改善してきたとき,どちらの薬剤を先に減量するかで迷う点です。私は①について,T4はもともと生体に存在し,T4製剤は急激あるいは過剰な投与をしなければ安全性が高いことを説明しています。②についてはできるだけ両者を同時に減量あるいは中止しています。
一方,抗甲状腺薬を維持量で使う際,第3世代TRAbが2~4IU/Lであるなら,私はあまり併用をしません。冒頭に述べた「チアマゾール5mg錠1錠を隔日投与(1週間に3.5錠)しても機能低下となるケース」では,たとえば同剤を1週間に2錠(曜日を決める)などにして単独投与しています。生体内のT4の半減期は約7日と長く,大半はサイロキシン結合グロブリン(thyroxine binding globulin:TBG)に結合するため,間欠的な投与でもfreeT4の変動は少ないと考えられます。freeT3の半減期は短いですがその大部分のソースであるT4が変動しなければ濃度は安定するはずです。
この方法を受け入れる患者は多く,一定期間のTRAb陰性化を見届けてから中止しています。ただ,このような抗甲状腺薬の少量単独投与が併用に比べて寛解率を向上するかどうかは今後の検討課題です。
T4の半減期が長いという知識は機能低下症の治療にも有効です。たとえば,レボチロキシン(チラーヂン®S)25μg錠1錠を1週間に5回内服するというような処方を守れる患者でヨードの過剰摂取がないのなら目標のTSHへの到達は比較的容易です。
【回答者】
佐々木茂和 浜松医科大学医学部内科学第二講座講師