全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は,ループス疹と呼ばれる多彩な皮膚症状を代表とする全身性自己免疫疾患のプロトタイプである。若年女性に好発する疾患として知られ,女性が90%,発症年齢は20~40歳代であることが多い。SLEの基本的な病態は,自己免疫現象による炎症や組織障害である。SLEによって侵される臓器は全身に及び,とりわけループス腎炎と神経ループスが最も重要な臓器病変で,両者の重症度が多くのSLE患者の予後を左右する。
発熱,関節炎などの全身症状に加えて,皮膚,腎,中枢神経,漿膜などの急性あるいは慢性の炎症所見があればSLEを疑う。SLEに特徴的な免疫異常(抗二本鎖DNA抗体など)があれば診断は難しくない。わが国では特定疾患の認定基準が,診断基準として用いられる。
SLEは臨床症状もその重症度も多彩である。発症,再燃(フレア)のときには重症度を評価して,過不足ない治療方針を決める必要がある。SLEと診断したら,初めに投与すべき薬剤がヒドロキシクロロキン(HCQ)である。寛解導入ならびに寛解維持の両者において,グルココルチコイド(GC)や免疫抑制薬のベースとなる薬剤であり,特に皮膚症状には有効性が高い。
活動期のSLEの治療の基本は,依然としてGC,すなわちステロイドである。ループス腎炎の場合はできる限り腎生検を行い,腎炎の型と組織学的活動性を評価した上で投与量を決める。それぞれの臓器病変の重症度を考え,免疫学的活動性(血清補体価,抗DNA抗体価など)も評価し,最も重症の臓器病変の必要量を投与する。
従来はSLEの寛解導入はもっぱら長期大量のGCに依存していたが,近年は免疫抑制薬の効果的な導入により,投与されるGCが少なくなる傾向がみられる。ループス腎炎の寛解導入に普及しているのが,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)である。
MMFには下痢,催奇形性(投与中は厳格な避妊が必要)などの問題はあるが,活動期のループス腎炎に対して,1.0g/日(500mgを1日2回)から投与を開始し,2.0~3.0g/日を目標に漸増する。寛解導入に有用である。Ⅲ型あるいはⅣ型のループス腎炎,あるいは重症中枢ループスに対しては,寛解導入にGCと並行してシクロホスファミド静注パルス療法(IVCY)が行われる。シクロホスファミドは毒性の強い薬剤で,かつてはSLEに対しても連日投与(100mg/日)が行われたが,IVCYは骨髄抑制や出血性膀胱炎など代表的なシクロホスファミドの副作用が圧倒的に少なく,シクロホスファミド投与の安全性が格段に高まった。一方,女性にIVCYを行うと,年齢が高いほど性腺機能不全の頻度が高まる。また,長期経過における安全性の問題は未解決である。
腎炎もしくは他の臨床症状の寛解が十分得られないときは,カルシニューリン阻害薬であるタクロリムスや,抗BAFF抗体であるベリムマブが併用されることがある。これらの併用によってGCの必要量を低下させることができる。
慢性期の治療(寛解維持療法)として,HCQは長期にわたって維持療法のベースとして用いられる。急性期に使用したGCは減量維持する。プレドニゾロンで10mg/日未満での維持が望ましい。免疫抑制薬も維持療法として用いられる。MMFは腎炎が寛解に至った場合,1.0g/日として維持療法を行う。タクロリムスのほか,ミゾリビンがループス腎炎として,アザチオプリンがSLEとして保険収載されており,通常の用量で維持療法に使用される。副作用の少ないベリムマブは寛解維持に優れると考えられる。維持療法として何をどれくらいの期間使用すべきかコンセンサスはないが,漫然と長期投与を行わず,維持療法は2~3年ごとに継続の是非を見直すべきである。
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