中核病院の糖尿病専門医の役割として、自科の入院・外来患者のケアを行う以上に、外科・産婦人科など他科患者の術前後における血糖管理への貢献度が大きくなっています。それでは、術後合併症を抑制しうる適正な周術期血糖管理の基準はどこにあるのでしょうか。2000年以降、この点について多くのエビデンスが示されてきました。
まず、口火を切った素晴らしいエビデンスは、2001年に発表されたLeuvenⅠ研究です。心臓手術を中心に、術後ICU管理となった成人患者を対象として血糖値を80~110mg/dLに厳格に管理すると、180~200mg/dLであった従来の治療と比較して、死亡率が有意に低下しました。この成績は、周術期血糖管理に専門的なスキルを必要とすることを意味し、糖尿病専門医にとって自分たちの存在意義を再認識させるものでした。しかしこれは、単一施設での限られた成績であり、さらには厳格な血糖管理による低血糖リスクの増加も示されたため、この成績の普遍的評価はその後の研究成果を待たなければなりませんでした。
その後、ICUや周術期の厳格な血糖管理の意義を検証するLeuvenⅡ研究、Glucontrol研究、さらに大規模多施設共同研究であるNICE-SUGAR研究が行われましたが、厳格な血糖管理の優位性は示されず、逆に死亡率を高めるという結果が示されました。原因として示唆されたのは、10倍以上増加した重症低血糖の関与です。これらのエビデンスをふまえて、米国糖尿病学会の周術期血糖管理指針では、周術期の目標血糖値を140~180 mg/dLとし、110mg/dL以下にはしないよう提言されています。
残り468文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する