【肺NTM症治療併用下でのアバタセプトの再開がよいかと考える】
この症例は,長期罹患の高齢関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の患者で,肺NTM症,コントロール不良の糖尿病(罹患歴14年,HbA1c 8.7%,血糖212mg/dL)を合併して,さらに,自然軽快はしていますがMTX関連リンパ増殖肺疾患後であり,治療法の制限される患者です。炎症反応が高く関節症状も強くRAの活動性は高いと予測されますが,現在,ステロイド薬および鎮痛薬による対症療法のみで根本治療ができていない状況です。肺NTM症の合併がありNTM症以外の呼吸器感染症のリスクも高くなっており,糖尿病のコントロールも不良です。感染リスクを上げ,糖尿病を悪化させ,さらに骨粗鬆症による骨折リスクを上げるステロイド薬に頼る治療は危険で,何らかの抗リウマチ薬によるRA活動性の制御を試み,ステロイド薬を減量し,可能なら中止したいところです。
MTX関連リンパ増殖肺疾患後にMTX以外の免疫抑制薬の使用によりリンパ増殖性疾患が再燃することがあり1),さらに未治療の肺NTM症を合併していることを加味すると,いわゆる免疫調節薬と呼ばれるサラゾスルファピリジン,イグラチモド,ブシラミンが選択しやすいと思います。ただし,高齢ですので,腎機能が低下している場合,ブシラミンは禁忌となりますのでご注意下さい。
肺NTM症合併RAに対する生物学的製剤投与に関して,リウマチ学会の勧告(2014改訂)ではNTM症の場合「非結核性抗酸菌症に対しては確実に有効な抗菌薬が存在しないため,同感染患者には原則として投与すべきでないが,患者の全身状態,RAの活動性・重症度,菌種,画像所見,治療反応性,治療継続性等を慎重かつ十分に検討した上で,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)阻害薬による利益が危険性を上回ると判断された場合にはTNF阻害薬の開始を考慮してもよい」と改訂されています2)。具体的には表2に「生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き」よりの抜粋をまとめます3)。この条件を満たすならば生物学的製剤の併用も可能と考えます。
呼吸器内科と併診の上,肺NTM症に対する治療を先行させ,その治療を継続させながら生物学的製剤の併用治療を行い,活動性を制御できれば,ステロイド薬を漸減し,可能であれば中止する方向が望ましいと思われます。
生物学的製剤の選択としては,重症感染症のリスクが高い場合は,英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)のガイドラインにありますように,アバタセプトやエタネルセプトが推奨されており4),MTX非併用であること,リンパ増殖性疾患の既往があること,以前アバタセプトの効果があったことを考慮に入れると,肺NTM症治療併用下でのアバタセプトの再開がよいかと考えます。効果が不十分であれば上記免疫調節薬の併用をご考慮下さい。
【文献】
1)Tokuhira M, et al:Leuk Lymphoma. 2012;53(4): 616-23.
2)日本リウマチ学会:関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン.
[http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_TNF.html]
3)生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き作成委員会, 編:生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き. 克誠堂出版, 2014.
4)Holroyd CR, et al:Rheumatology (Oxford). 2019; 58(2):e3-e42.
【回答者】
日髙利彦 市民の森病院副院長/膠原病・リウマチセンター所長