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特集:糖尿病の低血糖予防パーフェクトマニュアル─重症低血糖,無自覚性低血糖,夜間低血糖etc…

No.5079 (2021年08月28日発行) P.18

岩倉敏夫 (神戸市立医療センター中央市民病院 糖尿病・内分泌内科医長)

登録日: 2021-08-27

最終更新日: 2021-08-26

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1993年、北海道大学医学部卒業。2000年より神戸市立医療センター中央市民病院に勤務。現在,糖尿病内科医長,栄養管理部部長,人材育成センター長,京都大学医学部臨床教授兼任。

1 低血糖の定義と症状─重症低血糖,無自覚性低血糖の問題
・血糖値が70mg/dL以下に低下し,以下に述べる様々な症状が現れた状態を低血糖と呼ぶ。
・一般的に血糖値が60mg/dL程度に低下すると,まず空腹感・脱力感・動悸などの自律神経症状が現れる。さらに血糖値が50mg/dL程度にまで低下してしまうと,頭痛・傾眠・異常行動などの中枢神経症状が現れ,進行すると意識障害が出現し,昏睡に陥るとされている。
・“重症低血糖”とは,「血糖値のレベルにかかわらず,低血糖による意識障害が起こり,自分では対処できなくなり,家族や周囲の人の助けが必要になる低血糖」と定義されている。
・自律神経症状は警告症状と考えられ,この時点でブドウ糖などをすぐに摂取できれば,意識障害などの重篤な状態を回避することが可能であるが,自律神経症状を自覚できなくなると,昏睡状態に陥りやすくなる。
・このように低血糖を起こしても,警告症状を自覚できない場合を無自覚性低血糖と呼ぶ。
・無自覚性低血糖の人は特に重症低血糖を起こしやすいので,注意と対策が必要である。

2 重症低血糖予防対策
・重症低血糖のリスク因子として,①SU薬・インスリン使用,②HbA1c低値(薬の過剰投与含む),③高齢者,④腎機能障害,⑤低栄養・食事摂取不安定,⑥認知症,⑦無自覚性低血糖,⑧1型糖尿病,⑨自律神経障害,⑩肝機能障害,⑪重症低血糖既往歴などが挙げられる。
・医師や医療従事者がそのリスクを把握し,患者個々に合わせた対策を立てることが,低血糖の予防につながる。
・重症低血糖が危惧される薬剤として,インスリンやSU薬,グリニド薬がある。
・高齢者でインスリンやSU薬,グリニド薬服用の場合,日本糖尿病学会等から提示されている血糖コントロール目標は,緩やかに設定されている。
・さらに,薬剤の過剰投与を防止するために,HbA1cの目標の下限値が設定されている。
・SU薬やインスリン治療している多くの患者が,無自覚性低血糖や夜間低血糖を起こしている。
・無自覚性低血糖の大きな原因は,糖尿病治療薬による軽い低血糖を普段から繰り返すことである。
・患者に自己血糖測定(SMBG)や,CGM,FGMといったモニタリングを導入して,治療と血糖測定はセットで対応する。血糖値をいつでも確認できる状態にすることは低血糖の予防につながる。

3 低血糖時の対処法
①意識障害のない低血糖症の処置
・意識障害がなく経口摂取可能な場合には,ブドウ糖(10g程度)またはブドウ糖を含む飲料水(150~200mL)を摂取させる。
②意識障害のある低血糖症の処置
・低血糖昏睡患者の最も有効な治療法はブドウ糖の静脈注射である。20~50%ブドウ糖20mLを静注し,血糖値が改善するまで繰り返す。
・低血糖が遷延する場合は,血糖値が安定するまで5~10%のブドウ糖の持続点滴が必要になる。
③ブドウ糖の静注ができないとき
・すぐにブドウ糖の静注ができないときの,重症低血糖の応急処置薬として,2020年にグルカゴン点鼻粉末剤が発売された。
・グルカゴン投与後10~15分で血糖値の改善が期待される。
・ただし,低血糖が遷延するケースを考慮すると,点鼻粉末剤は,ブドウ糖点滴までの応急処置と考えるほうが安全である。

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