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学会レポート─2021年米国糖尿病学会(ADA)[J-CLEAR通信(131)]

No.5081 (2021年09月11日発行) P.66

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2021-09-08

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6月25日から29日にかけ、第81回となる米国糖尿病学会(ADA)学術集会が完全バーチャルで開催された。本稿では、各種血糖低下薬を公的資金で比較したGRADE試験、そして結果をめぐり議論となりそうなAMPLITUDE-O試験などについて紹介したい。

TOPIC1
GLP-1アナログCVイベント抑制作用の新エビデンスとなるか?:RCT“AMPLITUDE-O”

GLP-1アナログによる心血管系(CV)イベント抑制の、新たなエビデンスとなるだろうか。RCT“AMPLITUDE-O”である。新規の週1回型GLP-1アナログは、心腎疾患を合併する2型糖尿病例の「CVイベント・原因不明死」リスクをプラセボに比べ、相対的に27%、有意に減少させた。Hertzel C. Gerstein氏(マックマスター大学、カナダ)らが報告した。

AMPLITUDE-O試験の対象は、「CV疾患既往を有する18歳以上」か「CV高リスク腎機能低下の中高年以降」、かつ「HbA1c>7%」の4076例である。

平均年齢は64.5歳、女性が33%を占めた。糖尿病罹患期間は平均15.4年と長く、BMI平均値は32.7kg/m2だった。試験開始時のHbA1c平均値は8.9%、推算糸球体濾過率平均値は72mL/分/1.73m2である。

試験開始時のメトホルミン服用率は73%。SGLT2阻害薬も15%が服用していた。またインスリン使用率は63%に上った。なお、インクレチン関連薬使用歴のある例は除外されている。

これら4076例は、GLP-1アナログ“エフペグレナチド”4mg/週群、6mg/週群とプラセボ群の3群にランダム化され、二重盲検法で観察された。観察期間中央値は1.81年である(四分位範囲:1.69-1.98)。

なお本試験はスポンサーの決定により、2021年4月終了予定が20年12月に繰り上げられた(安全性が原因ではない)1)。その結果、上記1次評価項目発生数は「314」にとどまり、「ハザード比0.72以下を約80%の検出力で探知」するのに必要とされた「330以上」2)を満たすことなく終了となった。

その結果、今回1次評価項目とされた「心筋梗塞・脳卒中・CV死亡・原因不明死」の発生率はGLP-1アナログ群(2用量併合[事前設定])で年間3.9%、プラセボ群は5.3%となり、リスクはGLP-1アナログ群で有意に低かった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.58-0.92)。両群のカプランマイヤー曲線は、試験開始直後から乖離を始め、両群の差は試験終了まで広がり続けた。

なお、試験デザイン論文2)に記された1次評価項目は、上記「原因不明死」を含まない「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」である(ClinicalTrials. gov最新版[2021年1月5日]も同様)。今回の報告では、この当初1次評価項目イベントの数字への言及はなかった。

さて、興味深いのはサブグループ解析(事前設定)である。試験開始時メトホルミン服用例(2985例)と非服用例間で、GLP-1アナログによる「CVイベント・原因不明死」 抑制作用に差は認められなかった(交互作用 P=0.74)。
本試験はSanofiからの資金提供を受けて実施された。また学会報告と同時に、NEJM誌Webサイトで論文も公開された。

TOPIC 2
公的資金による4種血糖低下薬の直接比較ではGLP-1アナログの優位が示唆される: RCT“GRADE”予備解析

合併症や心血管系(CV)リスクのない、メトホルミン服用2型糖尿病例に対する、至適追加血糖低下薬は必ずしも明らかではない。エビデンスがないためである。このエビデンスの空白を埋めるべく行われた大規模ランダム化試験(RCT)“GRADE”が、John M. Lachin氏(ジョージ・ワシントン大学、米国)らにより報告された。製薬会社からの資金提供を受けず、最長7.8年間にわたる観察から示唆されたのは、GLP-1アナログの優位性だった。

なお、報告時点では、10%のイベントが判定委員会による確認(adjudication)を受けていないため、今回のデータはあくまでも「予備的」(Lachin氏)ということだ。

GRADE試験の対象は、メトホルミン単剤服用下で「Hb A1c≧6.8%」だった、罹患期間10年未満の米国在住2型糖尿病例のうち、メトホルミン最大2000mg/日服用の導入期間(6~12週間)後も「HbA1c:6.8~8.5%」の5047例である。心不全合併例、直近1年間にCVイベントをきたした例などは除外されている。

平均年齢は57.2歳、HbA1c平均値は7.5%、平均罹患期間は4.2年3)だった。推算糸球体濾過率は平均で95mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン(A/C)比平均は31.5mg/gCrである。

これら5047例は、メトホルミン忍容最大用量を継続の上、SU剤(グリメピリド)群とDPP-4阻害薬(シタグリプチン)群、GLP-1アナログ(リラグルチド)群、インスリン(グラルギン)群にランダム化され、非盲検下で観察された。血糖低下薬はそれぞれ、忍容最大用量まで増量した。

上記薬剤はすべて、参加者に無償で提供された。なお、SGLT2阻害薬が含まれていないのは、本試験計画時に米国では未承認であり、承認後もしばらくは安全性に懸念があったためだとDavid M. Nathan氏(マサチューセッツ総合病院、米国)は説明した。

■血糖

代謝1次評価項目である「管理失敗」(HbA1c≧7%)発生率は、インスリン群:67%、SU剤群:72%、GLP-1アナログ群:68%、DPP-4阻害薬群:77%となり、DPP-4阻害薬群ではほか3剤のいずれと比べても、有意に高くなっていた。またSU剤群も、インスリン群とGLP-1アナログ群に比べると、管理失敗率は有意に高かった。インスリン群とGLP-1アナログ群間に有意差はない。これらの結果は、「白人」、「黒人」、「その他人種」に分けて検討しても同様だったと、Lachin氏は述べた。

■CVイベント

注目のCV転帰だが、最長7.8年間観察(平均5年間)で「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」(MACE。当初より検討予定)4)の発生率は、インスリン群:4.2%、SU剤群:3.4%、GLP-1アナログ群:2.8%、DPP-4阻害薬群:4.3%だった。カプランマイヤー曲線はGLP-1アナログ群の発生率がほか3群に比べ低く見えるが(報告者のJohn B. Buse氏[ノースカロライナ大学、米国])、Log-rank検定のP値は0.147だった。

一方、Buse氏が今回詳細に報告した「全CVイベント」(上記MACE+心不全入院、要加療不安定狭心症、一過性脳虚血発作、血管への介入、ステント血栓症)は、GLP-1アナログ群(5.8%)で、インスリン群(7.6%)とSU剤群(8.0%)、DPP-4阻害薬群(8.6%)の3群併合に比べ、有意に低値となっていた(P=0.048)。

なお最小血管症は、「腎合併症」と「末梢神経症」に分けて検討したが、いずれも4群間に有意差は認められなかった。

■有害事象

重篤な有害事象発現率は、インスリン群:36%、SU剤群:37%、GLP-1アナログ群:33%、DPP-4阻害薬群:35%という結果だった。重篤低血糖の発現率は、インスリン群:1.4%、SU剤群:2.3%、GLP-1アナログ群:0.9%、DPP-4阻害薬群:0.7%と総じて低かったが、SU剤群では他群よりも有意に多かった。

本試験は、米国国立衛生研究所の国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)から資金提供を受けて実施された。

TOPIC 3
新規血糖低下薬の有効性と安全性をアジア人で確認:RCT“DAWN”

「グルコキナーゼ(GK)活性化」という機序を持つ、新たな血糖低下薬が登場しそうだ。中国で行われたランダム化試験“DAWN”において、GK活性化剤は、メトホルミンで血糖管理不良だった2型糖尿病例のHbA1cを著明に低下させるだけでなく、食後血糖値も低下させた。Hua Medicine社(中国)のLin Chen氏が報告した。

DAWN試験の対象は、メトホルミン1500mg/日を12週間服用したにもかかわらず、「HbA1c:7.5~10.0%」かつ「空腹時血糖(FPG):126~240mg/dL」だった18歳以上の767例である。

平均年齢は54.5歳、男性が62%を占めた。BMI平均値は25.9kg/m2、HbA1c平均値は8.27%、FPGは平均177.5mg/dLだった。

これら767例は全例がメトホルミンを継続の上、GK活性化剤“ドルザグリアチン”75mg×2/日群とプラセボ群にランダム化され、24週間、二重盲検法で観察された。また24週間の観察終了後は、安全性確認のため、さらに全例でGK活性化剤を28週間服用した。

その結果、1次評価項目である「二重盲検期間(24週間)のHbA1c」低下幅は、プラセボ群の0.36%に対し、GK活性化剤群で1.02%と有意に高値となっていた。同様に24週間後の「HbA1c<7.0%」達成率も、GK活性化剤群では44.4%と、プラセボ群の10.7%を有意に上回った(いずれもP<0.0001)。また服用開始24週間後に7.19%だったGK活性化剤群のHbA1c値は、さらに28週間服用(合計52週間服用)後も7.41%だった。

興味深いことに、GK活性化剤群では24週間後、食後2時間血糖値も、試験開始時に比べ98.1mg/dLの低値となっていた(プラセボ群は53.5mg/dL、群間差:P<0.0001)。また同期間、GK活性化剤群ではプラセボ群に比べ、HOMA2-β、HOMA2-IRとも有意な改善を認めた。

一方、有害事象については、GK活性化剤52週間服用期間中に重篤低血糖、重篤有害事象は1例も報告されず、有害事象全体の発現率も、GK活性化剤群とプラセボ群間で同等だった。
本試験はHua Medicine社などからの資金提供を受けて実施された。

TOPIC 4
SGLT2阻害薬は2型糖尿病例の肝臓にどう作用するのか:RCT“EMPA-REG OUTCOME”後付解析

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)例では心血管系(CV)リスクの上昇が報告されている。では、CV高リスク2型糖尿病例のCVイベントを抑制するSGLT2阻害薬は、2型糖尿病例の肝臓/NAFLDにどのような影響を及ぼしているのか。そしてNAFLDはSGLT2阻害薬のCVイベント抑制作用に影響を与えるのか。

このような観点からRCT“EMPA-REG OUTCOME”を後付け解析した結果が、Sabine Kahl氏(デュッセルドルフ大学、ドイツ)によって報告された。CV高リスク2型糖尿病例の多くは肝変性を伴っており、SGLT2阻害薬には脂肪肝抑制作用はあるものの線維化は抑制せず、またNAFLDが進展するとSGLT2阻害薬のCV保護作用が減弱する可能性が示唆された。

EMPA-REG OUTCOME試験の対象は、CV疾患を合併する2型糖尿病7020例である。高低用量別2群のSGLT2阻害薬群とプラセボ群の3群にランダム化され、二重盲検法で3.1年間(中央値)追跡された。その結果、高低用量2群を併合したSGLT2阻害薬群において、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」のハザード比は0.86(95%信頼区間:0.74-0.99)と、有意な低値となっていた(既報)5)

今回Kahl氏らは、試験開始時の「Dallas脂肪肝指数」(DSI)と「NAFLD線維化スコア」(NFS)を算出し、NAFLDと肝線維化が転帰に与える影響を検討した。試験開始時データからは、「NAFLD」と考えられる例6)が72.1%、「高度肝線維化」・「肝硬変」と考えられた例7)が22.8%存在することが明らかになっている。

まず、SGLT2阻害薬によるHbA1c低下作用だが、観察期間を通して、DSIとNFS、いずれの高低も問わず一貫していた(減弱は見られず)。

NAFLD指標への影響は、DSIが試験開始28週間後に、SGLT2阻害薬群でプラセボ群に比べ、約0.20の有意低値を示し、その差は試験終了時までほぼ維持された(期間中を通して有意差)。一方、肝線維化の指標であるNFSの推移は、SGLT2阻害薬群とプラセボ群の間にまったく差を認めなかった。

次に試験開始時のDSIと臨床転帰の関係を調べた。すると、「CV死亡」、「心不全入院」とも、DSIが高値になる(NAFLDの可能性が高い)ほど、SGLT2阻害薬群におけるリスク減少幅が小さくなる傾向を認めた(NS)。そして「CV死亡・心不全入院」を併合解析すると、試験開始時NAFLD有病確率の高い例ほどSGLT2阻害薬による抑制作用が減弱していた(交互作用P=0.029)。他方、SGLT2阻害薬による「総死亡」と「腎症発症・増悪」抑制作用は、NAFLDとの交互作用を認めなかった。

対照的にNFSの高低(肝線維化重篤度)は、上記いずれのイベントとも交互作用は認められなかった(SGLT2阻害薬による抑制作用は一貫)。なおKahl氏は、SGLT2阻害薬によるNAFLD抑制が長期的には線維化を抑制する可能性もあるとの見通しを示した。

EMPA-REG OUTCOME試験本体は、Boehringer IngelheimとEli Lillyの資金提供を受けて行われた。今回の報告者であるKahl氏には申告すべき利益相反はないという。

【文献】

1)ClinicalTrials. gov. NCT03496298.

2)Gerstein HC, et al:Diabetes Obes Metab. 2021;23 (2):318-23.

3)Wexler DJ, et al:Diabetes Care. 2019;42(11):2098-107.

4)Nathan DM, et al:Diabetes Care. 2013;36(8):2254-61.

5)Zinman B, et al:N Engl J Med. 2015;373(22):2117-28.

6)McHenry S, et al:Clin Gastroenterol Hepatol. 2020; 18(9):2073-80.

7)Angulo P, et al:Hepatology. 2007;45(4):846-54.

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