【妊娠する可能性のある女性に対する薬物療法は,基本的に控えるべきと考える】
女性の場合,心筋梗塞の発症率が増加するのは閉経後であり,少なくとも70歳代までは,心筋梗塞や脳梗塞の発症率が男性よりも低いことが知られています。そのため,女性では,動脈硬化性疾患に対する脂質異常症治療薬の一次予防効果は,スタチンですら明白ではありません。また,妊娠中および授乳中における脂質異常症治療薬の安全性は確立していません。
したがって,妊娠する可能性のある女性の脂質異常症に対する薬物療法は,基本的に控えるべきです。ただし,冠動脈疾患や非心原性脳梗塞の既往など実際に動脈硬化が進行している患者はもちろんのこと,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)患者,糖尿病患者,慢性腎臓病患者の場合には,動脈硬化性疾患を発症するリスクが高いため,閉経前から薬物療法を考慮します。
ご質問のような症例を診た場合には,まずは続発性脂質異常症を除外します。特に女性では,高コレステロール血症の原因が甲状腺機能低下症であることが少なくありません。また,食事内容を聴取するとともに,食事指導を行います。血清LDL-Cが200mg/dLを超える原因として,時にはケーキを大量に食べているなど極端な食生活が認められることがあります。
そのような原因が認められない場合には,FHが疑われますので,黄色腫(眼瞼黄色腫以外の皮膚結節性黄色腫や腱黄色腫)または2親等以内の家族歴(FHあるいは早発性冠動脈疾患)からFHと診断できる場合には,患者に十分な説明と生活習慣の改善を指導した上で薬物療法を考慮します。
FHと診断できない場合には,生活習慣の改善のみで動脈硬化の進行を定期的にフォローし,必要であれば閉経が確定した時点から薬物療法を開始することが推奨されます。ただし,女性は長寿ですので,個人的には,女性ホルモンの低下症状(更年期症状)が明らかに認められるようであれば,その時点から早めに薬物療法を考慮してもよいと考えています。
【参考】
▶ 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. ナナオ企画, 2017.
【回答者】
安藤 仁 金沢大学医薬保健研究域医学系 細胞分子機能学教授