家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)は,大腸に腺腫が多発する常染色体優性遺伝性疾患である。大腸に100個以上の腺腫を有する,または,大腸の腺腫数が10〜100個未満であるが本疾患に矛盾しない家族歴を有する場合はFAPと診断される。APC遺伝子の病的バリアントが認められれば,大腸腺腫数や家族歴にかかわらずFAPと診断される。わが国の患者数は約7300人と推定されている。大腸外病変として胃・十二指腸腺腫や胃底腺ポリポーシス,腹腔内デスモイド,甲状腺癌,骨腫などを認めることが多い。
大腸に腺腫が100個以上認めた場合,本疾患を強く疑う。両親のどちらかが本疾患に罹患している場合,子どもは1/2の確率で遺伝している。
診療ガイドラインに記されているFAPの大腸癌予防のための唯一の治療法は予防的大腸切除術である。手術は20歳代で行うことが多い。術後にも回腸囊に腺腫が発生することがあり,術後はデスモイド腫瘍の発生する可能性が高まるため,大腸切除後も残存腸管および全身のサーベイランスが必要である。
最近になり,大腸内視鏡治療手技の進歩とともに,大腸切除をせずに内視鏡にて大腸ポリープを徹底的に摘除することにより,大腸手術時期を遅らせたり,避けたりするための研究的治療が行われてきている。ただし,内視鏡的にポリープを多数摘除する技術が必要なため,内視鏡的大腸ポリープ徹底的摘除は専門施設で行うことが望ましい。
胃や十二指腸の腺腫に対しては定期的な上部消化管内視鏡検査,甲状腺癌,腹腔内デスモイドに対しては定期的な甲状腺,腹部超音波検査にて経過観察を行う。
残り1,270文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する