動脈硬化性疾患の強い危険因子であるLDLコレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)値が高くなる病態である。家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)をはじめとした原発性のものと,代謝疾患,内分泌疾患,腎疾患などに伴って生じる続発性のものが存在する。
早朝空腹時に総コレステロール値,HDLコレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)値,中性脂肪値を測定した後,Friedewaldの式でLDL-C値を算出し,140mg/dL以上を高LDL-C血症と診断する。また,高リスク病態ではLDL-C管理目標値が120mg/dL未満のため,120mg/dL以上140mg/dL未満を境界域高LDL-C血症と診断する。
現在の日本における脂質異常症の多くは,肥満やメタボリックシンドロームといった生活習慣病を基盤とした続発性のものである。また,原発性脂質異常症においても生活習慣の乱れが脂質異常症を悪化させる。それゆえ,薬物療法を行う前に食事療法や運動療法による生活習慣改善,体重の適正化を指導する。また,ネフローゼ症候群,甲状腺機能低下症,クッシング症候群などの続発性脂質異常症では原疾患の治療を優先し,原疾患治療と生活習慣改善を行っても脂質異常症が存在している場合に薬物療法を考慮する。特に,甲状腺機能低下症では,原疾患に気づかずにスタチンを投与するとCK上昇・横紋筋融解症を起こしやすいので,必ず初診時にその有無を診断する。
原発性脂質異常症であるFHは300人に1人の高頻度の遺伝性疾患であり,動脈硬化性疾患発症リスクが非常に高い疾患である。それゆえ,腱黄色腫や結節性黄色腫といった身体所見に留意し,冠動脈疾患の家族歴を確認することで見落としがないようにする。FHの診断がついた場合は,生活習慣改善と同時に薬物療法を開始することを考慮する。それ以外の症例では,「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」 1)の脂質管理目標値設定のフローチャートに従ってそれぞれの症例をカテゴリー分類(低リスク,中リスク,高リスク,二次予防)し,LDL-C管理目標値を設定する。
LDL-C管理目標値は,低リスク160mg/dL未満,中リスク140mg/dL未満,高リスク120mg/dL未満,二次予防100mg/dL未満,である。なお,一次予防糖尿病症例で喫煙,細小血管合併症,またはPADを合併する場合は100mg/dL未満,二次予防症例のうちFH,急性冠症候群発症後1年以内,糖尿病,あるいは冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の両者を合併する症例は70mg/dL未満を考慮する。また,一次予防FH症例の管理目標値は100 mg/dL未満である。久山町スコアを用いた対象者のカテゴリー分類化・管理目標値設定には,日本動脈硬化学会が作成した無料アプリ「冠動脈疾患発症予測脂質管理目標値設定ツール」が有用である。
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