免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はがん免疫応答の亢進を介して抗腫瘍作用を示すモノクローナル抗体で,抗細胞傷害性T細胞抗原(CTLA)-4抗体,抗programmed cell death-1(PD-1)抗体および抗programmed cell death-1 ligand 1(PD-L1)抗体が保険適用となっている。本薬剤を用いた治療では,自己免疫機序の関与が示唆される免疫関連有害事象(irAE)が発生する。irAEは全身の臓器で認められ,内分泌irAEとして下垂体機能低下症,副腎皮質機能低下症,甲状腺機能異常症,副甲状腺機能低下症,1型糖尿病が報告されている。
内分泌irAEの症状は非特異的な場合が多く,原疾患(がん)による症状として見過ごされる可能性もある。したがって,ICIを使用する場合は内分泌irAEの発生に留意し,疑われた際は精査する。内分泌irAEの発生はICIの中止後にも報告されている。ICI開始前にirAEのリスクを判別することはきわめて有用で,下垂体および甲状腺のirAEにおいてそれぞれ抗下垂体抗体1),甲状腺自己抗体2)が高リスク因子となることが報告されており,今後のバイオマーカーの確立が期待される。
ICIによる下垂体機能低下症には,下垂体腫大と複数の下垂体前葉ホルモン分泌低下症を呈する下垂体炎と,下垂体腫大がなく副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌低下症を呈するACTH単独欠損症の2つの病型があり,いずれの病型でもACTHの分泌障害は必発である。一方,中枢性尿崩症の発症はきわめて稀である。下垂体炎は抗CTLA-4抗体単独または抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用療法で認められ,ACTH単独欠損症は抗CTLA-4抗体,抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体療法のいずれにおいても発生する。ACTH分泌低下症が疑われた場合,精査と並行して生理量のステロイドの投与を直ちに開始する。
コルチゾール分泌低下症が疑われた場合,精査と並行して生理量のステロイドの投与を直ちに開始する。
甲状腺中毒症と甲状腺機能低下症に分類される。抗PD-1抗体療法において発症率が高く,治療開始6カ月以内に生じることが多い。治療開始前から甲状腺自己抗体が陽性の場合は特に注意を要する2)。ICIで認められる甲状腺中毒症はほとんど破壊性甲状腺炎であり,一過性のホルモン上昇の後,甲状腺機能低下症となる。一方,甲状腺機能亢進症はきわめて稀である。破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症に対し,抗甲状腺薬は無効である。
低カルシウム血症を呈するが,血清Ca値の異常は原疾患や治療に伴って生じることがあるため,血清Ca値に加え,intact PTH,25-水酸化ビタミンD,1,25-水酸化ビタミンD,血清P,Mg値,尿中Ca,Mg排泄率等を測定して鑑別を行う。
抗CTLA-4抗体よりも抗PD-1抗体による場合が多い。1型糖尿病の治療が遅れた場合は生命予後に影響することから,診断後は直ちにインスリン治療を開始する。
上記すべての疾患において,薬理量のグルココルチコイド投与はエビデンスがないため推奨されない3)。また,治療によって状態が安定化するまではICIの休薬を検討する。
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