甲状腺中毒症(甲状腺ホルモン過剰状態)に強い侵襲が加わり,それらに対する生体の代償機構の破綻から多臓器不全に陥る,致死的できわめて危険な病態である。2012年に報告されたわが国の全国疫学調査によると,推計患者数は年間約150人,致死率は10%以上。播種性血管内凝固症候群(DIC),多臓器不全,ショックの併発で死亡率は上昇する。原疾患ではバセドウ病が最多(機能性甲状腺結節,無痛性/亜急性甲状腺炎も発症例あり),抗甲状腺薬の不規則な服薬,感染等の侵襲が誘因となる。
日本内分泌学会ホームページ掲載「甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017 Digest版」1)の甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)参照。
重度の甲状腺中毒症の症状と意識障害が特徴。
①中枢神経症状:JCS1以上,GCS14以下。不穏,せん妄,痙攣,昏睡等。
②発熱:38℃以上。
③頻脈:130回/分以上。心房細動併発例もある。
④心不全:肺水腫,肺野の50%以上の湿性ラ音聴取,心原性ショック等。NYHA分類Ⅳ度,Killip分類Ⅲ度以上。
⑤消化器症状:嘔気,嘔吐,下痢,黄疸。
FT3,FT4の両方またはどちらかが高値である。FT3正常値の重症例もあるので注意する。
一般的緊急処置,十分な輸液と電解質補正,身体冷却などの全身管理,併発症(感染症,DICなど)も含め集学的治療を行う。DIC,多臓器不全,ショックを併発,またはAPACHE Ⅱスコアで9以上の場合には集中治療室で管理する。
バセドウ病からの発症では,無機ヨウ素と抗甲状腺薬を大量投与する。相対的副腎不全の病態も伴うとされ,初期から副腎皮質ステロイドを投与する。頻脈には主にβ1選択性のβ遮断薬,心房細動合併でジギタリスを使用する。厳格な心血行動態モニタリングと心不全治療も行うことが多く,Killip分類Ⅳ度でカテコラミン製剤投与での昇圧不十分な重症例は,人工心肺も考慮する。循環器科医と連携すべきである。解熱にアセトアミノフェン,中枢神経症状に鎮静薬(リスペリドン,オランザピン等)や抗痙攣薬(ジアゼパム等)使用,脳神経内科/精神科医にも相談する。意識障害を認め,総ビリルビン5mg/dL以上またはへパプラスチンテスト30%未満,動脈血ケトン体比0.7未満ならば急性肝不全で,持続濾過透析併用の血漿交換も必要である。
放置すれば死に至るため早期に治療開始,専門医へ早めにコンサルトすべきである。頻脈へのβ遮断薬使用は過剰投与や心不全に注意し,β1選択性短時間作用型を使用する。気管支喘息患者には慎重投与,喘息発作が誘発された場合はベラパミルやジルチアゼムへ変更を考慮する。解熱薬は遊離型甲状腺ホルモン増加の可能性がある非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)でなく,アセトアミノフェンを使用する。高齢者では高熱や多動等の典型的な症状に乏しいこともある。
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