子宮内膜症は,子宮内膜類似の組織が骨盤腹膜,卵巣など主として骨盤内の子宮外に発育する疾患で,病理学的には良性である。エストロゲン依存性の発育をする。月経痛,不妊症,慢性骨盤痛などが症状としてみられる。また,卵巣に囊胞を形成することもあり,これは別名「チョコレート囊胞」と呼ばれる。子宮内膜症はうつ症状,心血管系イベント,妊娠中の産科異常の増加と関連している。また,チョコレート囊胞からは卵巣悪性腫瘍が発生しやすい。症状,病巣のサイズ,挙児希望の有無など,総合的に判断して治療方針をたてる。なお,頻度は少ないが,腸管,膀胱,尿管,臍,鼠径部,胸腔,肺実質などに発育する場合もあり,稀少部位子宮内膜症と総称される。
ほとんどの場合,外来診察時に行う問診・内診と経腟超音波検査で診断可能であるが,MRI検査を併用すると,より正確で詳細な診断ができる。特に,MRI検査ではチョコレート囊胞の詳細な診断や稀少部位子宮内膜症の診断に優れる。
現在挙児希望はないが,今後に挙児希望がある患者においては,ホルモン製剤による薬物療法が主体である。一般に短期の治療では再発しやすく,長期間の治療が必要である。なお,閉経によりエストロゲンが低下すると自然退縮する。各種ホルモン製剤の使いわけのポイントは以下の通りである。
①ジエノゲスト(1mg錠):疼痛緩和効果が強く,病巣の縮小も期待できる。副作用として不正出血があるが,時間経過とともに減少する。
②ジエノゲスト(0.5mg錠):1mg錠と同様であるが,比較的軽症のものに用いる。
③低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤:喫煙なし,肥満なし,40歳未満といった血栓症のリスクがない症例に適している。
④ GnRHアゴニスト,GnRHアンタゴニスト:ともに適用外処方となるが,症状の重いものに用いる。重症例においてはGnRHアゴニストもしくはGnRHアンタゴニストを4~6カ月使用し,引き続き長期間にわたりジエノゲストもしくは低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤を使用するシークエンシャル療法も可能である。
ホルモン製剤による薬物療法の効果が不良な場合,チョコレート囊胞の大きな場合は病巣を除去する手術を行う。手術は多くの場合,腹腔鏡下手術で可能である。既に挙児希望がない症例では,子宮全摘+両側付属器摘出術が根治療法となるが,対象となる症例は比較的少ない。
残り628文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する